家賃支援給付金制度(1)―Withコロナの不動産運用ビジネス―  森・濱田松本法律事務所 弁護士 佐伯優仁

はじめに


 2020年6月12日、令和2年度第二次補正予算が国会で成立した。歳出は主に新型コロナウイルス感染症対策関係経費であるが、その中で家賃支援給付金の創設に2兆円強の予算が割り当てられた。そして、同年7月7日、この制度を所管する経済産業省が申請要領を公表し、同月14日には給付規程も公表され、制度の詳細が明らかになった。給付金の申請は、同月14日より受け付けられている。
 家賃支援給付金制度の内容を正確に把握することは、給付金を受け取るテナント(賃借人)はもちろん、それを活用して家賃支払いを受けるオーナー(賃貸人)にとっても、将来の賃料支払いの動向を把握し、テナントとの賃料支払交渉を適切に進めるために重要である。この給付金は、後で述べるとおり、基本的に資本金の額または出資の総額が10億円未満である中小企業等のテナントしか受領できないが、比較的大型の物件(特に商業施設)のテナントの中にもかかる中小企業等がいる場合もある。オーナーは、テナントのキャッシュフローや財政状況を勘案して賃料の支払猶予または減免の要否および金額を決定することになるが、その判断にあたってテナントによる給付金の受領の有無および金額も新たに重要な考慮要素となるだろう。
そこで、かかる家賃支援給付金制度について、以下説明することとする(全4回)。

背景・概要


(1)背景
 新型コロナウイルス感染症により売上高の急減に晒されている多くの企業・事業者の存続・継続のためには固定経費負担を減らす政策が求められるとして、2020年5月8日、与党賃料支援PTが、政府に対して、「テナントの事業継続のための家賃補助スキームについて」を提言し、既存の政策融資(公庫融資、制度融資)に加えて家賃支援給付金の支給を柱とするハイブリッド型の家賃補助制度の創設等を提言した。その中では、家賃が固定経費の中で大きな割合を占めることが認識されている。

(2)概要
 売上の急減に直面する中で地代・家賃を負担した事業者の事業継続を下支えするため、地代・家賃の負担を軽減することを目的として、テナントである事業者に対して給付金を支援する制度である*。
給付金を受け取れるのはオーナー(賃貸人)ではなくテナント(賃借人)である。そして、実際に賃料を支払った後にその分の金額が後払いで支給されるのが原則の補助金とは異なり、条件を満たせば、給付金を請求した後、給付額全額(6カ月分)が一括で給付される。テナントが給付金を活用して賃料を支払うことが想定されている。ただし、給付金そのものは直接賃料の支払いに使われなければならないとはされていない(給付金の使途を事後的に証明することは求められていない)。したがって、給付金を賃料以外の支払い(たとえば、家賃支払に充てられた政策融資の元本返済)に充てることもできる。

(3)家賃の支払いを支援する他の制度
 上記のとおり、家賃支援給付金は、既存の家賃支援制度と合わせて活用されることが想定されている。既存の家賃支援制度には、主に、①政策融資と、②他の給付金がある。
まず、①政策融資は、(i)日本政策金融公庫および商工組合中央金庫等の低利融資と特別利子補給制度による、実質無利子・無担保・据置最大5年の融資と、(ii)都道府県等による制度融資を通じた利子補給による、民間金融機関の実質無利子融資等がある。
そして、②他の給付金は、(i)国による持続化給付金や、(ii)地方創生臨時交付金等を活用した、地方自治体による独自の事業者に対する協力金等がある。
 加えて、オーナーとテナント双方による自主的な賃料支払いの猶予または減額等、民間の努力を助成する施策がとられている。たとえば、①国土交通省は「新型コロナウイルス感染症に係る対応について」を発出し、賃料減額分について税務上の損金として計上することができる旨を明確化したほか、②法務省は「賃貸借契約についての基本的なルール」を公表し、新型コロナウイルス感染症の影響で3カ月程度の賃料不払いがあっても、当事者間の信頼関係が破壊されておらず、オーナーによる契約解除(立ち退き請求)は認められないケースが多いという考え方を周知している。さらに、③金融庁は「家賃の支払いに係る事業者等の資金繰りの支援について(要請)」を発出し、オーナーおよびテナントのいずれに対しても、既往債務についての元本・金利を含めた減免・返済猶予等(元本据置き・返済期限の延長等)の条件変更等を迅速かつ柔軟に実施することを金融機関に要請している。
 そして、国土交通省は、2020年7月7日、事務連絡「新型コロナウイルス感染症の影響を受けた事業者への支援施策等について」において、不動産関連業者に関係のある上記の施策をまとめて発出している。
(つづく)

*土地・建物を購入した者が、その代金を分割して売主に支払っている場合や、取得資金を借入金で調達し、その後借入金の元利金を定期的に返済している場合は、経済的実体としては賃料を支払っているのと同じとも考えられるが、この制度の対象とはされていない。

2020/11/4 不動産経済FAX-LINE  

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