国勢調査人口速報から考えること-大正大学教授・小峰隆夫(下)
大正大学教授 小峰隆夫

国勢調査人口速報から考えること-大正大学教授・小峰隆夫(上)より続く

人口の取り合いではなく
出生率改善がカギ


 第4に、多くの自治体が人口減少に苦しむ中で、人口を増やすことに成功している自治体があるということを考えてみよう。
 国勢調査の結果を報じた日本経済新聞(2021年6月5日)は、千葉県の流山市の例を取り上げている。この記事によると、流山市の人口は、2015~20年の間に14.7%増えた。これは、東京電力の福島第1原子力発電所事故による避難指示の解除という特殊要因で人口が急増した福島県の4自治体を除くと、市町村別で最も高い増加率だったという。
 同記事によると、流山市では駅前で児童を預かり、保育所までバスで送迎する行政サービスなどを先駆的に実施してきた。その結果、13~17年平均の流山市の合計特殊出生率(1人の女性が産む子どもの数)は、全国平均(1.43)を上回る1.58となった。さらに、同記事には「出生率が改善した自治体は人口も増加傾向」ということを示すグラフも掲げられている。つまり、人口が増えている自治体のほとんどは、出生率も上昇しているということだ。
 常識的には、地域の人口変化については、人の移動に伴う社会移動の影響が大きいとされており、出生数と死亡数の差による自然増減の影響は小さいとされてきた。前述の指摘は、出生率の違いによる自然増減も地域の人口変化にかなり影響していることを伺わせるものとなっている。
なかなか興味深い指摘だが、この点については、「子育て世帯の取り合い」というゼロサムゲームになっていないかを注意する必要がある。特定の自治体が子育て世帯への支援を手厚くすると、近隣自治体からの移住者が来るから人口は増え、出生率も上昇する。すると、社会移動による人口増加と出生率上昇が一体となって進行することになる。前述の、「出生率が改善した自治体は人口も増加傾向」という関係が現れたのはこのためではないかと考えられる。
 しかし、人口が出ていった自治体では、人口の社会減と出生率の低下が進むことになるから、日本全体としての出生率・人口減少の緩和にはつながらないことになる。同記事では「人口減に歯止めをかけるためにはこうした自治体の成功例を生かす工夫が試される」としている。一見すると常識的な指摘だが、こうしたゼロサム的な関係を考えると、思ったほどには効果的でない可能性がある。
もっともこうした見方は、ややクールすぎるかもしれない。多くの自治体が子育て支援を競えば、日本全体で子育て環境が改善し、日本全体の出生率を引き上げるということも考えられるからだ。
国勢調査の結果はいずれも常識的で特に目新しいわけではないが、一歩踏み込んでみると、人口問題についていろいろ考える材料に満ちていて興味深いものがある。

2021/7/7  不動産経済Focus&Research

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