富裕層がけん引する住宅市場―株高に支えられ反転リスクも潜在(上)より続く
住宅・不動産大手はアッパー層焦点の事業戦略
株価連動性高く忍び寄るリスクの点検も必要
東京都心など大都市部では高額物件が相次ぎ売れていき、郊外など地方では格安住宅に飛びつく消費者の取り込み合戦という日本列島のゆがみを住宅・不動産各社が際立たせている。たとえば北関東では、パワービルダーと呼ばれる飯田グループホールディングスや地場業者の主戦場だ。大手住宅メーカーも、「地方の顧客は、我々が供給する分譲住宅の建物価格が高いという認識を持っている」と実感。しかし、地場ビルダーと同じ土俵に上がろうとは思っておらず、あくまでも資金的に余裕のある客層に照準を当て、注文住宅で稼ぐ姿勢に変わりはない。
マーケットを支える富裕層やアッパー層はどれだけいるのか。野村総合研究所によれば、日本の富裕層は2019年に133万世帯になり、前回調査の2017年の126.7万世帯から増えた。2020年10~11月に全国の企業経営者を対象にアンケート調査したもので、純金融資産の保有額が1億円以上5億円未満の富裕層が124.0万世帯、5億円以上の超富裕層が8.7万世帯となり、純金融資産総額は333兆円と推計。アベノミクスが始まった2013年以降、一貫して増加を続けて2005年以降の最多を記録した。
コロナ禍の調査だったため、個人資産の管理・運用について、「複雑でわかりにくい商品よりも、シンプルでわかりやすい商品を好むようになった」が半数を占めている。この“わかりやすさ”が、不動産という現物資産に資金を向かわせたとも推察できる。
住宅・不動産大手は、既に富裕層やアッパー層に照準をあてた事業戦略に舵を切り、そうした層をいかに取り込むかが事業戦略の主眼だ。東京・東銀座で大和ハウス工業が売り出しているマンションは坪単価500万円を超えるが、同社では、「株高を背景に富裕層や夫婦で稼ぐパワーディンクスなどが購入している。新型コロナ感染当初は動きが鈍かったが、その後の株価上昇の影響を受けて伸びてきた」と話す。
富裕層は株価との連動性が強いのが特徴だ。30年ぶりに日経平均株価が3万円の大台に乗せたことでその勢いが増している。裏を返せば、この株高の動きが反転すると一気に住宅市場が収縮しかねない。裕福な層に偏っていただけにその株高シナリオが崩れることについて住宅・不動産各社も警戒が及んでいるはずだ。
足元では、日銀がETF(上場投資信託)の買い入れ対象を4月からTOPIXだけに絞ることを決めたことやJリート(不動産投資信託)も年間900億円の買い入れ目安を削除するなどが株式市場に影響がじわりと出始めている。
米国発の動きも目が離せない。米国は史上最高の株高に沸くが、資産バブルを招きかねないと関係各所から懸念の声も上がっている。
バイデン政権は新型コロナウイルス対策として1.9兆ドル、日本円に換算して約200兆円という巨額の追加経済対策法を可決した。1人当たり最大1400ドルの現金給付と週400ドルの失業給付の上乗せが柱だが、感染が収束に向かうシナリオを前提に巨額給付金が消費を過熱させてインフレを引き起こせば、それを冷ますために金利政策を変更しかねない。2023年末までFRBは現在の緩和政策を続けることをアナウンスしているが、金融政策は水モノで予断を許さないとの指摘もある。
とりわけ富裕層にとっては、アベノミクス以降で築き上げてきた資産をさらに増やす場面から減らさない守りの姿勢へ転換するマインドに切り替わる。コロナ禍で起こる構造変化が緩やかに進むことを踏まえながら、忍び寄るリスクを点検する必要もありそうだ。
2021/4/5 不動産経済ファンドレビュー