デジタル社会で進むか地方創生
―社会の分断と格差拡大に懸念も(上)に続く
コロナ禍での新たな生活様式は、密を避ける観点で大都市からの脱出を促す。仕事は会社に行かずに自宅にいてもできるし、東京にいなくてもできる。オフィス不要論が台頭し、地方創生が注目を浴びている。日本社会のデジタル対応のもろさ修復が急務だというかけ声とともに地方創生への期待感が膨らんでいる。人口減少の中で、こうした流れが住宅・不動産業界にとって活路となるのかを探った。
DXが新たな需要を生み出すわけではない
テレワークは職種、年収のほか地域差も
もっとも、DXが需要を新たに生み出すわけではなく人口を増やすわけでもない。言ってみれば、デジタル化で効率性と迅速性を追求してビジネス展開することで、他社よりも早く事業シェアを取りたい、他社より少しでも多く売り上げ、成約数を伸ばしたい、という限られたパイの奪い合いの状況は変わらない。デジタル社会により、地方経済や地方の不動産マーケットをあまねく潤すのかは未知数である。
実際、最近のテレワークの状況を見ると、期待感が先走っている様相が強く、デジタル格差も浮き彫りとなった。大東建託が10月16日に発表した「新型コロナウイルスによる意識変化調査」によれば、この半年間でテレワークを止めた人が約4割に上っている。
大東建託賃貸未来研究所所長の宗健氏は、オンライン会見で「テレワーク維持派も多いが、テレワークの揺り戻しで通常業務に戻っているところが少なくない」といい、コロナで社会の分断化が進んだと指摘する。例えば、従業員1000人以上の企業では43.3%の実施率だが、自営業・自由業が8%となっており、企業規模や業種・職種によってテレワークの実施状況に大きな乖離が存在している。
クリエイティブ系の職種はテレワークで自由に働く傾向が強いが、事務方の仕事や営業・販売の現場はテレワークを導入しづらい。正社員の実施率が高く、パート・アルバイトが低い。大企業であっても本社のワーカーはテレワーク対応できるが、工場ラインなどの現場や営業販売現場では低いといった社内格差も顕在化した。
テレワークは、年収の格差も見せつけている。年収1000万円以上の実施率は7割超と高いが、200万円未満は1割強にすぎない。4割強の600万~800万円、6割弱の800万~1000万円未満と年収の高さとテレワーク率が比例して高い。テレワーク実施率は地域差が大きい。首都圏では約4割が実施しているが、関西圏の3割強、愛知県の2割強となり、これ以外の地域での実施率は2割に届いていない。
地方にどれだけ人が向かっているのか。「これからは郊外の時代」との論調はメディアの報道に左右されているところが大きいとの指摘も少なくない。しかし宗氏は、これから郊外の時代が本格的に到来するのかの判断は時期尚早だとしている。
似たような見方をする専門家はほかにもいる。たとえば、新たな生活様式を受け、職住近接の人気が落ちて郊外の住まいが人気化するとの見方について、東京カンテイ上席主任研究員の井出武氏は、「それは環境しだい。自分の住まいがテレワーク対応の間取り、機能を持っていたとしても、住まい周辺の環境が追いついていないと意味をなさない」と話す。つまり、周辺に商業施設や病院、役所など公共施設が整っていることが条件ではないかと説明する。
企業としては地方の地価・広さともに魅力だ。だが、都心から郊外には比較的出やすい半面、再び都心に戻ることはたやすくない。コロナが終息し、都心回帰の流れが再び発生することを考えると、企業の核心部分は郊外に移しにくい。テレワークによる住まいの郊外化やオフィスの郊外化が定着するのか。不動産需要の増大は見通しづらい。
2020/11/5 不動産経済ファンドレビュー