デジタル社会で進むか地方創生―社会の分断と格差拡大に懸念も(上)

 コロナ禍での新たな生活様式は、密を避ける観点で大都市からの脱出を促す。仕事は会社に行かずに自宅にいてもできるし、東京にいなくてもできる。オフィス不要論が台頭し、地方創生が注目を浴びている。日本社会のデジタル対応のもろさ修復が急務だというかけ声とともに地方創生への期待感が膨らんでいる。人口減少の中で、こうした流れが住宅・不動産業界にとって活路となるのかを探った。


コロナ機に多地域居住が一般化する見方も
デジタル対応が外せなくなった住宅・不動産業界

 コロナ前までの社会経済活動に戻るには、向こう数年を要するとの見方が大方である。現状ではどの程度まで回復しているのか。
JLLのリカバリーインデックスによれば、新型コロナ感染第2波の中にあって指標がわずかに改善したとする。ヘルス、金融、雇用、生産、需要、モビリティ、不動産の7つの分野の動向を元に算出。10月に発表した8月末時点のトータルインデックスは、70.1ポイントとなり、前月末より2.0ポイント上昇したという。月ごとの変動幅が大きい新築マンションの契約戸数を除くと、6月に72.9ポイント、7月に68.1ポイントと5月の50.8ポイントを底に盛り返して推移する。
その中で不動産分野をピックアップすると、8月末時点のインデックスは7月末から51.1ポイントと大幅な上昇率を見せて68.4ポイントだった。最も低かったのは5月(9.0ポイント)である。7月(17.3ポイント)も沈んだものの、同社では、コロナ禍の低迷から持ち直しつつあると分析している。
 この持ち直しも、これまでとはやや違う様相を呈し、郊外に熱い視線が注がれる。不動産流通経営協会の調査によれば、「複数拠点生活」を実施している人は推計600万人を超えており、こうした意向を持つ人も同程度存在するという。世帯年収で見ると、500万~600万円と一部の富裕層ではないことがわかっており、コロナを契機に2地域・多地域居住の実践者が増加して一般化するのではないかとの見方が増えている。
 デジタル社会がそれを後押しするのか。菅政権は、社会のデジタル化に注力するとの意気込みを見せて発足した。デジタル庁の創設に向けて、まずは行政手続きの電子化を進めるため、10月に「デジタル・ガバメント閣僚会議」の下に作業部会「デジタル改革関連法案ワーキンググループ」を新設。年末までに基本方針を策定する予定だ。2021年の通常国会に関連法案の提出を目指している。12月下旬に閣議決定する予定だが、一般会計予算の概算要求総額は過去最大の105兆4071億円に達する。3年連続で過去最大だが、デジタル化に向けての要求が目立っているのが特徴だ。

自宅でテレワーク(イメージ)

 これからデジタル対応が急ピッチに進めば、地方にいながら仕事ができ、これまでとは違う新たな社会風景を生み出せるとの期待が足元では大きい。こうした流れを受けて地方自治体や民間企業と協力しながら、サテライトオフィスの整備を急ぐ動きが活発化している。
住宅・不動産業界にとってデジタル対応が外せなくなった。地域不動産事業者が加入する業界団体も「苦手意識からデジタル化に手をつけないと取り残される」との危機感が今までになく募っており、業界団体としてもテック企業と提携して会員向けにサービスを提供する。不動産大手とのDX(デジタルトランスフォーメーション)格差を縮めようと必死だ。
 不動産・住宅情報サイトを運営するLIFULL(ライフル)などはこのほど、事業者間の不動産情報の共有・連携のため、「一般社団法人不動産情報共有推進協議会」(代表理事・松坂維大)を設立して、法人・個人が不動産情報を安全に利用できるプラットフォームの構築を実現する取り組みを始めた。不動産業界のDXの推進とエンドユーザーの暮らしや働き方に貢献することを目的に活動するという。

デジタル社会で進むか地方創生
―社会の分断と格差拡大に懸念も(下)
に続く

2020/11/5 不動産経済ファンドレビュー

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