マンション管理の未来51 三井不動産レジデンシャルサービス・世古洋介社長 リアルとオンラインのベストミックスな管理業務を探る(上)より続く
##評価制度に取り組むために背中を押すインセンティブを期待
――グループの総合力を活かした管理への取り組みは。
世古氏 すまいと暮らしにかかわるサービスを提供できる三井不動産グループの連携は当社の強みであり、さらに進めていきたい。三井不動産レジデンシャルは、新しいブランド戦略として「Life-styling×経年優化」を掲げた。当社も顧客最前線企業として、お客様に寄り添っていく役割を果たしたい。
三井不動産が展開するホテル事業との連携では、ハイシーズンには予約で埋まってしまうマンションのゲストルームの代わりとして、系列ホテルの宿泊プランや、テレワークスペースとしてご利用いただくプランをご提案した。多角化する三井不動産の業態と連携し、すまいや暮らしに関わる多様なサービスが提供できる強みを生かし、お客様のニーズがどこにあるのか当社が理解した上で、より良いサービスをご提供できるよう引続きグループ全体の連携強化を図りたい。
――業界の見通しについて。
世古氏 国が推進する管理計画認定制度とマンション管理業協会が推進するマンション管理適正評価制度は、協会と国交省が両制度の接続に関してすり合わせいただいた。当社は管理組合が適切な評価を得られるように、お客様のニーズを把握しながら、認定評価を取るために必要な提案を進めたい。
マンション管理適正評価制度は、情報がオープンになることで仲介市場のプレーヤーと連携が図られ、適正な管理をしているマンションが仲介市場で評価されることが大事だ。そして管理組合が評価制度に取り組むために背中を押すインセンティブ制度の制定が進むことを期待している。管理業界が抱えてきた課題を解決する道筋につながる重要な制度だと認識している。
また、マンション管理適正化法や標準管理規約の改正により、ITによる理事会・総会・重要事項説明等の位置づけが明確になった。管理会社各社はITを使用した工夫・効率化を進めており、お客様の期待も高まっている。国の方針と歩調を合わせ、管理業界の生産性の向上につなげて、お客様に還元できるようにしていくことが大事だ。
――IT化が進んだ先をどう見据えるか。
世古氏 当社が開発を進めているシステムはお客様と当社の接点の在り方を中心に進めており、手続きの柔軟性やペーパーレス化につながるものだが、その先の未来としてはお客様同士のやり取りにつながっていけばいいと思う。東日本大震災以降、マンション内のコミュニティを大事にする考え方が居住者の間で顕著になっており、これからもその方向性は変わらないと見ている。コロナ禍以前はリアルの接点を求めてイベントや防災訓練を実施してきたが、コロナ禍を経て居住者同士のコミュニティづくりにおいてもオンラインを経由する方法があっても良いと感じた。リアルとオンラインのバランスを取りながらベストミックスとなることが重要だ。
働き方改革でも同様のことが言える。コロナ禍で出勤を抑制するためにオンラインでの業務が増えた。在宅勤務やテレワークで効率化できることが多く、便利さを感じる反面、リアルな接点により活性化していた社内コミュニケーションが失われてしまうデメリットを感じた。働き方においてもリアルとオンラインのベストミックスを探っていく必要がある。当社は部活動が盛んで、コミュニケーションが活発な点が強みだと思っていたが、コロナ禍の中で社内イベントがやりにくくなっている。最近はオンラインで社内のコミュニケーションを活性化する取り組みに挑戦しており、部署を越えたチームによるウォーキングラリーや、昼休みを利用した社員インストラクターによるヨガ教室などを行うなど、横のつながりを意識している。こうした取り組みを通じてベストミックスを考えていきたい。
##カーボンニュートラルに既存住宅がどう取り組むか
――政策要望は。
世古氏 特に築年数が経たマンションの組合財政が厳しくなることが予想される。マンションの空き駐車場が増えており、駐車場の外部貸しによる収入補填のニーズが高まる中で、収益事業に対する所得税等の課税減免措置を要望したい。また大規模修繕工事にかかる管理組合の経済的負担は大きく、何らかの支援を進めてほしいと思う。
カーボンニュートラルが社会的に求められている。新築住宅であればデベロッパーは主体的に取り組むことができるが、管理組合が主体となる既存住宅においてどこまで取り組みを拡大していけるかは重要なポイントだ。現状でも断熱性の高いサッシへの交換に対する補助制度などの仕組みはあるものの、制度の使い勝手をもっと良くしてもらうために見直しが求められるのではないか。
(プロフィール)
世古 洋介(せこ・ようすけ)氏
1960年1月2日生まれ、愛知県出身。1983年3月一橋大学商学部卒業後、同年4月三井不動産株式会社入社。2008年4月リゾート事業推進部長、2011年4月総務部長、2013年4月執行役員総務部長、2016年4月執行役員ホテル・リゾート本部長を経て、2019年4月三井不動産レジデンシャルサービス株式会社代表取締役社長(現任)。
2021/ 8/5 月刊マンションタイムズ