(提供:日刊不動産経済通信)全国的に旺盛な住宅需要やコロナ下で続いていた行動制限の緩和等による人流の回復を受け、22年の基準地価は全国全用途平均が3年ぶりに上昇した。業界トップから寄せられたコメントには、足元の好調な市況を実感しながらも、先行きの不透明さを警戒する姿勢もみられる。
菰田正信・不動産協会理事長 先行きについては、コロナ禍の動向やウクライナ情勢の影響、海外経済の下振れ懸念など、非常に不透明な状況にあり、地価動向についても十分に注視していく必要がある。とりわけ、都市・地域の土地・不動産ストックの有効活用や生産拠点の国内回帰を促し、事業再編などの新たな設備投資を喚起・支援することが必要だ。
竹村信昭・不動産流通経営協会理事長 足元の既存住宅の流通市場は、概ね順調に推移している。東日本不動産流通機構の統計によると、首都圏マンションの成約件数は対前年で減少傾向にあるが、一方で成約価格は27カ月連続でプラスとなっている。営業現場においては、旺盛な購入需要に支えられ取引件数は底堅さを維持している。しばらく続いてきた売却物件不足にも改善の動きがみられるなか、取引価格は依然として強含みの状況にある。
坂本久・全国宅地建物取引業協会連合会会長 都心を中心に住宅需要が堅調であること、低金利環境、住宅取得支援策による需要の下支え効果を受け全用途が堅調に推移したものである。全宅連不動産総合研究所による最新の土地価格動向でも実感値でプラス14・0㌽と前回調査時と比べ2・0㌽上昇し、6調査連続で改善されていることからも回復傾向は確実なものと認識している。
秋山始・全日本不動産協会理事長 輸入建築資材の高騰による建築費の高止まりが続き、戸建て、マンションともに取得価格が大きく上昇している。消費者にとって「手の届く物件」の層が明らかに変わって来ているほか、直近の消費者物価指数は前年同月比3・0%上昇と消費財の値上がりによる家計への影響も日増しに大きくなっており、住宅の買い控え、購買意欲の減退を招くおそれが少なくない。ドメスティックに解決できる問題ではないだけに大きな期待は抱き得ない。
吉田淳一・三菱地所社長 住宅は、都心の高額物件の引き合いが継続して強い。一方、テレワークの浸透などライフスタイルの多様化によって、郊外物件でも販売好調が続いている。また円安の進行などの影響により、特に6月以降は都心高額物件などで海外からの反響も旺盛である。渡航制限の緩和後は、海外からの購入希望はより増加すると思われる。
仁島浩順・住友不動産社長 商業地では、人流の戻りとともに飲食店舗やホテル需要が回復傾向にある。東京のオフィスビル市況も一進一退の様相が続くものの、足元では立地改善や統合、集約などの多様な移転ニーズに加え、採用増による増床など前向きな需要が増えている。住宅地は、低金利環境や住宅取得支援策などが下支えとなり、希少性の高い都心部や生活利便性に優れた地域を中心に、新築、中古取引ともに需要が引き続き堅調で、上昇に転じた地点が増加した。
岡田正志・東急不動産社長 今後の不動産市場については、国際情勢などのマクロ要因やコロナ禍の影響には引き続き注視する必要があるが、都市部を中心にさらに活況を呈することになるとみている。ただし今後の不動産市場ではオフィスや住宅、商業施設などで同業他社と差別化した不動産開発がますます重要となる。欧米では不動産に対する環境意識も高まっており、国内でも同様の流れが強まると判断している。
野村均・東京建物社長 ホテル・店舗は、行動制限・水際対策の緩和等により、利便性の高い全国主要都市を中心に人流の回復を受けて売上回復傾向が続くと思われる。今後は企業業績の回復とともにオフィス市況も落ち着きを取り戻していくだろう。人流の回復基調や底堅いオフィス需要に加えて、不動産売買市場の堅調さなどを背景に利便性に優れたエリアにおける商業地の地価は当面は安定的に推移していくものと考えている。
松尾大作・野村不動産社長 住宅市場に関しては、需要は堅調である一方で供給が限られており、売れ行きは引き続き好調である。共働き世帯を中心にテレワークの浸透などによる住まいへの関心の高さは続いており、富裕層の動きも活発である。ただし、金利の上昇、住宅ローン控除の縮小、資材・労務費の高騰に伴う建築費の上昇については、注視しておく必要がある。
伊達美和子・森トラスト社長 東京の不動産市場は世界的にも安定している。また低金利政策により良好な金融環境を維持していることから投資家の投資意欲は旺盛であり、都心5区の地価は横ばいか上昇を記録した。地方四市では再開発による利便性や繁華性向上への期待感から、地価が上昇した一方、地方四市を除く多くの地点では地価の下落が続き、二極化の様相を呈する。