1年遅れでスタート
新型コロナウィルスの世界的に感染拡大が継続するなか、巨大イベントの開催に関して、さまざまな制約が続いている。わが国にあっても、第5波の収束を受けて、人数制限の緩和がなされつつある。今後、ウイズコロナの時代に向けて、ワクチン接種者の受け入れに関する社会実験など、新たなイベントのあり方について模索が続くことになるだろう。
2020年に予定されていたドバイ万国博覧会が、おおよそ1年の延期ののちに開幕した。ドバイ万国博覧会は、UAEが1971年に建国されてから50周年となることを記念して誘致された。中東・アフリカ地域にあって初の登録博となる。欧米で始まりアジアで盛んに行われるようになった国際博覧会の歴史にあって、ベンチマークとなり、また国際社会にとっておおいに意義のあるイベントである。
192カ国が参加、2021年10月1日から2022年3月31日までの182日を会期とする。12月11日にはジャパンデーの事業が開催された。2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の直前の博覧会であり、各国への参加要請を行う機会という点からも注目されるところだ。
ただ本来は、ドバイ博と大阪・関西万博とのあいだに、2023年にブエノスアイレスで、南米初となる国際博覧会の開催が準備されていた。「人間開発のための科学、革新、芸術、創造性」「デジタルコンバージェンスのクリエイティブ産業」などをテーマとする認定博だが、2020年10月にアルゼンチン政府は「コロナ禍と経済危機のため、博覧会会場の建設工事を開始することができず、完成を確認するにはさらに時間が必要である」と博覧会国際事務局(BIE)に通知、開催は見送られている。
コロナ禍における巨大イベントのあり方を考えるうえでも、ドバイ博の経験は注視に値する。ドバイ博覧会は期間中に2500万人を動員、3兆円を超える経済波及効果を想定している。入場に際してはワクチン接種証明か、72時間以内のPCR陰性証明が求められる。
3つのサブテーマを
各パビリオンで具現化
ドバイ万博の会場面積は438haと過去最大の規模となる。駅を降りると正面にドバイ展示場が見えてくる。ドーム型の巨大なシンボル施設「Al Wasl Plaza」を中心に、テーマ施設、各国の展示館が配置される。ドームの直径は約130m、鉄骨の高さは約67.5mにおよぶ。
ドバイ万博では、「Connecting Minds, Creating the Future(心をつなぎ、未来を創る)」をテーマに掲げ、さらに「モビリティ(流動性)」「オポチュニティ(機会)」「サステナビリティ(流動性)」のサブテーマを展開。会場内の3エリアに、それぞれの主題に沿ったパビリオンを設けている。
サブテーマ「モビリティ」では、「人・物・アイデアが物理的にもバーチャルにも賢く効率的に移動すること」を具現化することが想定されている。パビリオンは、Foster+Partnersの設計になる。湾曲した外観が流動性を表現、反射率の高いステンレスの外壁が周辺環境を映し込んでいて美しい。
サブテーマ「オポチュニティ」では、「より良い未来を形づくる人々と地域社会の潜在性を解放すること」を目的とする。AGI Architectがデザインを担ったパビリオンは、誰もが利用可能な公共スペースである異文化交流の広場をかたちにした。6層に重なり合う屋根の造形は、人類が共有する雲と夢を表現するものと説明されている。
サブテーマ「サステナビリティ」は、「地球と調和する尊敬の念とクリーンで安全、健康的な生活様式」を提示する。Grimshaw Architectによる展示館は、砂漠特有のケジリの樹から着想を得たデザインになっている。幅130mの大屋根と周囲に林立する太陽光を集める18本のエネルギーツリーが特徴的である。
もっとも印象的な建物が、28枚の翼状の屋根で覆われたUAE館である。「動きの流れの象徴的解釈」を主題とし、スペインを代表する建築家Santhiago Calatravaによるデザインである。屋根はシェル構造とフレーム構造のハイブリッドで、油圧式のアクチュエーターで可変する。動きのある仮設建築の実践である。
大阪・関西万博につなぐ取り組みも導入
ドバイ万博の会場では、日本館も存在感を示している。エントランス前の半屋外のスペースを、アラベスク文様にも似た日本固有の麻の葉文様を組み合わせた立体格子で覆う。中東と日本の「アイデアの出会い」を表現している。
昼間は白色に陽光に輝き、夜間はライトアップされて水盤に映り込む。折り紙のような空間を通して、光と影が独特の美観を生んでいる。
日本館は、館内でもミストを散布、入場者に涼を提供している。湿度がある室内環境に、日本の風土や気候の特徴を感じとることが可能である。展示は「Join, Sync, Act.」を主題に、「来場者は過去から現代、そして未来へと、出会い、共感し、そして動き出す。」ものと説明される。入館者は、それぞれ観覧用のスマートフォンを貸与される。端末を用いて、シーン1からシーン4にかけて関心を持って立ち止まった体験の履歴データを蓄積、その結果を受けて、シーン5にあって来場者の関心に沿って個性的なアバターが生成される。さらにアバターの交流を反映した未来が、16名の若手イラストレーターが共創したアートで表現される。さらにシーン6では、来場者の課題意識やアイデアを投稿できるコーナーを設置、大阪・関西万博の企画検討に活かすことが想定されている。
日本館では、森永邦彦氏によるアテンダントのユニフォームも注目される。日本政府が関与する国際的な展示館のユニフォームとしては初めて、靴や帽子なども含めて、男女同一のユニセックスのデザインが採用された。回収したペットボトルを原料とし、集中した光を当てると文様が浮かび上がる「再帰性反射素材」を使用した点もあわせて、従来とは異なる発想が魅力的である。
私は、ドバイ万国博覧会の日本館に関して基本構想立案に専門家として参加した。フィジカルな空間とサイバー空間の融合をはかる日本館の展示手法は、新たな情報伝達方法の可能性を模索するものであり、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)にあって、いっそう発展をみることになるだろう。 (注/本稿は「大阪日日新聞」の連載に寄稿した文章を再編したものである)
2022/1/12不動産経済Focus &Research