シリーズ;相続対策最前線② 個人富裕層の不動産投資の動向 コロナ禍のマネー流入で利回り物件取得に厳しさ フェイスネットワーク(下)
フェイスネットワーク 石丸洋介取締役

 相続税への増税傾向が強まる中、個人富裕層による不動産投資ブームが続いている。相続税対策として賃貸住宅に投資するのが常套手段だが、2018年のスルガショックと2020年のコロナ禍を経て賃貸住宅投資を巡る市場環境が大きく変化した。1棟物件が高額化し利回りが確保しづらい状況となっている。そこで相続対策に対する個人富裕層のニーズの現状と今後の見通しについて、フェイスネットワークの石丸洋介取締役に話を聞いた。フェイスネットワークは主に世田谷区・目黒区・渋谷区といった城南エリアの資産性の高いエリアで投資用新築一棟RCマンションを供給するデベロッパーだ。

シリーズ;相続対策最前線① 個人富裕層の不動産投資の動向 コロナ禍のマネー流入で利回り物件取得に厳しさ フェイスネットワーク より続く

Q:期待利回りについて

 土地情報のルートは金融機関もあるがどちらかといえば地場の仲介業者のルートが多い。コロナの前の実績では表面利回りは4%台半ば~後半程度で落ち着いていた。だが今は4%台前半とか、4%フラットという物件も珍しくない。エリアや立地によってはそれをさらに下回る。当社の取り扱いエリアで言うと、中目黒や下北沢などのブランド力のあるエリアで徒歩5分とかだと3%台後半の場合もある。都心部の渋谷・港区でも3%台のものも多い。

Q:相続対策の需要はついてこれるか?

 純粋な投資に比べればあまり利回りに拘っていないケースが多いが、それでもある程度のキャッシュフローは出さないといけない。ただし相続対策のためにどうしても不動産をポートフォリオに組み込まなくてはいけない、不動産を買わざるを得ないという人が一定数いる。だから当社の事業としては問題はない。仮に、利回り3%台でも立地や商品が良ければ買っていただけている。当社のマンションシリーズ「グランデュオシリーズ」は特にデザインに拘っている。通りいっぺんのものは当社は作らない。実物を見てもらえれば気に入っていただける方が多いと思う。見た目の良さだけでなく、入居者の居住性にも拘っているから入居率も高く、過去に購入した人が2棟目、3棟目を買っていくというリピーターさんも多数だ。

Q:建設費が高騰しているが

 当社は建築部門を内製化している。そのため厳密な原価計算が可能だ。例えば生コンクリートの仕入れの値段も建材価格データを拾って、単価だけでなく量についても精査できる。1つのプロジェクトに対して必要な生コンが何立米、鉄筋が何トンといった積算ができる。道路幅員が何メートルで2トン車は何台必要かまでかなり正確なシミュレーションが可能だ。それで当社の自社施工がいいのか外部に投げたほうがいいのか正しい見積もりが判断できる。会社によっては便乗値上げをするところも出てきている。だが精査すればものによっては上がっていないものもある。そこはしっかり強弱が付けられ、最終的には利回りにも還元出来る。

Q:価格が上がれば売り先が変わるのでは?

 今は対個人とファンドを含む法人と両方やっている。ファンドの需要が旺盛だが、個人からの不動産投資の需要も根強く、売り先が大きく変わるとは認識していない。1棟あたりの価格のアベレージは、23年3月期の竣工物件の平均価格は7.9億円と8億円近い数字になる見込みだ。20年3月期は平均が4.2億円で、22年3月期は5.7億円だった。3年間で価格は倍になった。価格については単純な上昇もあるが、物件の大型化を進めていることが主な理由だ。

Q:あまり小さい物件はやらないと…

 全くやらない訳ではないが、大型物件に対する需要が大きい。ファンドだけでなく個人の超富裕層がそういう物件を求めている。個人で大型物件を求めている人の多くはリピーターの方だ。これまで盛んに開催していた、新規の投資家を募る「不動産投資セミナー」はコロナをきっかけに休止しており新規顧客の割合は減少傾向である。個人相手はリピーターの方だけでも供給のかなりの部分を充足出来る。多くは過去に表面利回り6%とか7%で購入いただいた方々だが、そういう方たちに昨今の価格上昇を理解していただいた上で、2棟目以降を購入いただけており、物件の価値の維持や入居率の高さなどを評価してもらっている。

Q:低い利回りは受け入れていると。それ以外にニーズの変化はあるか?

 それほどない。あえていうなら、エリア指定の顧客が増えたかもしれない。例えば三軒茶屋のズバリこの場所に投資したいとか。利回りだけではなく資産性を重視した投資が増えてきている。最近は株価が軟調だがそういう事象に左右されないお客が増えてきた。個人投資家のリピーターは上場企業オーナーのような資産が数十億円規模の方もいる。

Q:土地価格はどうなるだろうか

 土地の価格は現在の旺盛な需要から簡単には下がらないと想定するが、金利動向等には注視が必要だ。建築価格は資材価格についてはいずれ天井が来ると思われるが、人材不足による人件費の高騰は変わらず高止まりが想定される。今後もこれらの上昇が継続すれば、開発側も徐々に断念するケースも発生すると見ており、当社にとっては土地を買うチャンスが広がるのではないかと考えている。

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