賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(2)<br>―不動産業者が知っておきたい新法解説―<br>  森・濱田松本法律事務所 弁護士 佐伯優仁

本法の内容
(1)「賃貸住宅」とは


 「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(1)ー不動産業者が知っておきたい新法解説」において述べたとおり、本法は、①いわゆるマスターリース契約の適正化に関する措置と、②賃貸住宅管理業に関する登録制度の創設を二つの柱としている。いずれにおいても、対象となる物件は「賃貸住宅」とされており、それは、賃貸に使用されている住宅(人の居住の用に供する家屋または家屋の部分をいう。)である(2条1項)。
ただし、人の生活の本拠として使用する目的以外の目的に供されていると認められるものとして省令で定めるものは除かれる。したがって、最終的な適用対象は省令の成立を待つ必要があるが、原則として本法は居住物件または居住区画を対象にし、オフィス、商業、宿泊等のために用いられている物件または区画等は対象とはならないものと考えられる。

(2)マスターリース契約の適正化に関する
措置


(ア)「特定賃貸借契約」(マスターリース契約)とは

 本法において、マスターリース契約は「特定賃貸借契約」と定義されている(2条4項)。具体的には、賃貸住宅の賃貸借契約(賃借人が人的関係、資本関係その他の関係において賃貸人と密接な関係を有する者として省令で定める者を除く。)であって、賃借人が賃貸住宅を第三者に転貸する事業を営むことを目的として締結されるものである。
 転貸事業またはサブリース事業を営むことを目的とすることは通常マスターリース契約の目的規定で判断されるが、仮に契約上明確にその旨を目的とする規定がなくとも、マスターリース契約の条項、契約締結時の状況、実際の物件の利用状況等をふまえてかかる目的が認定されることもあり得よう。
もっとも、マスターリース契約の賃貸人と賃借人、つまり、オーナーとサブリース業者が人的関係、資本関係その他の関係において密接な関係を有する場合は特定賃貸借契約に該当せず、本法は適用されない。典型的には両社が同一グループに属する場合が想定されるが、具体的には省令の成立を待つ必要がある。
そして、特定賃貸借契約の賃借人、すなわちサブリース業者は「特定転貸事業者」と定義されている(2条5項)。

(イ)特定転貸事業者に適用される規制


(i)全般
 特定転貸事業者には登録制度は設けられず、その行為に対して規制が及ぶ制度となっている。したがって、後述する賃貸住宅管理業者のような小規模事業者を規制対象外とする制度とはなっておらず、小規模の特定転貸事業者であっても以下の規制を受ける。


(ii)誇大広告等・不当な勧誘等の禁止
 まず、特定転貸事業者は、誇大広告等および不当な勧誘等が禁止される(28条、29条)。これらの規制は、勧誘の適正化の観点から、特定転貸事業者(サブリース業者)と組んでサブリースによる賃貸住宅経営の勧誘を行う者(勧誘者)にも適用される*1。
これらの規制の下で、特定転貸事業者または勧誘者は、特定賃貸借契約の条件についての誇大広告等を行ってはならず、また、特定賃貸借契約の締結の勧誘時等に、特定賃貸借契約に関する事項であって特定賃貸借契約の相手方であるオーナーの判断に影響を及ぼす重要事項について故意に事実を告げず、または不実のことを告げる行為が禁止される。かかる重要事項の例として家賃の減額リスクが挙げられている*2。具体的な内容は、今後ガイドラインにおいて明確化される予定である*3。


(iii)説明義務・書面交付義務
 特定転貸事業者は、特定賃貸借契約を締結する際には、相手方であるオーナーに対し、契約締結前および契約締結時に書面を交付する義務を負い、締結前にはその内容を説明する義務を負う(30条、31条)。ただし、締結前の説明・書面交付義務については、特定転貸事業者である者その他の特定賃貸借契約について専門的知識および経験があると認められる者として省令で定める者には義務を負わない(30条1項括弧書き)。特定転貸事業者のほかにどのような者がこれに該当するのか省令に注目したい。
契約締結時書面の記載事項はある程度本法でも定められているが、一部は省令で定められる(31条1項)。契約締結前書面の具体的な記載事項は本法では定められておらず、省令で定められる(30条1項)。一例として家賃、賃貸条件、契約期間等が挙げられており、ガイドラインで具体的に規定される予定である(局長答弁)*4。
 契約締結時書面は、実務上は特定賃貸借契約の契約書に記載事項を網羅することによって対応することになるだろう。
 なお、両書面とも、オーナーの承諾を得て、書面の交付に代えて電磁的方法により提供することができる(30条2項、31条2項)。


(iv)書類の閲覧
特定転貸事業者は、その業務および財産の状況を記載した書類を、営業所または事務所に備置し、特定賃貸借契約の相手方であるオーナーまたはそれになろうとする者の求めに応じ、閲覧させる義務を負う(32条)。かかる書類の詳細は省令で定められる。


(v)監督・制裁
特定転貸事業者または勧誘者の上記義務の違反に対しては、国土交通大臣は、違反是正措置等の指示および1年以内の業務停止命令を行うことができ、その旨は公表される(33条、34条)。勧誘者の違反に対しては、勧誘者だけでなく必要に応じて特定転貸事業者に指示・命令がなされ得る。
また、誰もが国土交通大臣に対し適当な措置を申し出ることができる規定や(35条)*5、国土交通大臣による報告徴収及び立入検査の規定もある(36条)。
(つづく)

* かかる勧誘を行う者は「勧誘者」と定義され、特定転貸事業者または勧誘者は「特定転貸事業者等」と定義されている(28条)。具体的には、特定賃貸借契約締結に向けて特定のサブリース業者と何らかの特定の関係性があると認められる者であり、実例としては、サブリース業者の系列の不動産業者、建設会社等が多いが、サブリース業者との資本関係、契約関係の有無を問わず、実態に即して判断するとされ、具体例はガイドラインにおいて明確化される予定である(局長答弁)。


*2国土交通省「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律案」(概要)

*3家賃保証または空室保証との表現を用いることが直ちに違反するものではないが、あわせて賃料減額リスクが伝えられていない場合には、規制の対象になる(局長答弁)。

*4金融機関から融資を受けた場合の償還計画は説明・書面記載事項にはならないが、適切な前提条件を提示せず、または事実と異なる事柄を提示した場合に事実不告知または不実告知として不当な勧誘等の規制違反となる可能性がある(局長答弁)。

*5具体的には、地方整備局においてトラブル事案を受け付ける(局長答弁)。

2020/9/2 不動産経済FAX-LINE

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