シリーズ;不動産の”正直営業”はどこまで可能か??⑨ おとり広告の実態と防ぐ方法 LIFULL HOME'S加藤氏
LIFULL・加藤哲哉氏

NHKテレビドラマ「正直不動産」では、「おとり広告」を巡る不動産営業についても触れられている。不動産ポータルサイト上のおとり広告の現状について、株式会社LIFULL(ライフル)の加藤哲哉氏に、過去の事例やLIFULL HOME'Sで現在行っている対策について話を聞いた。

加藤氏は大学卒業後、株式会社リクルートに入社し「住宅情報」(現・SUUMO)の広告営業や企画を担当。その後不動産事業者向けサービス事業を立ち上げリクルートから独立。現在はLIFULL HOME'Sの情報審査部門の他、不動産投資事業戦略室の室長を務める。

おとり広告の現状とこれまでの経緯について

私は不動産広告業界のキャリアが約40年になる。私が新人として今の業界で働き始めた頃の不動産広告は新聞広告や情報誌など、紙媒体で行われていた。印刷からユーザーの目に触れるまでに数日かかるため、その間に広告されている物件が成約してしまうケースもあれば、ありもしない架空の物件を作って集客目的で掲載されるケースもあった。  当時も違反広告を掲載する会社に対しては取り締まりを行っており、特に悪質だと判断した場合は、取引自体を停止する事もあった。

しかし、当時は反発する不動産会社も多く、時には「確かにこの物件は成約しているけれど、現実に存在している物件だ。架空物件ではないから注意するな」と言われた事もあった。

そういったいい加減さを目の当たりにする事が多い時代だったと

約40年前の不動産業界から現在に至るまで大きな変化があった。広告媒体は紙からインターネットが主流となり、物件情報は鮮度や精度が当たり前に求められる時代となった。存在しない架空物件はもちろんのこと、成約した物件をいつまでも掲載する「おとり広告」の存在はユーザーからの信頼を失う原因になるため、ポータルサイト運営会社側でも積極的に取り締まろうという流れがでてきた。

デジタル時代のおとり広告の現状認識について

今は40年前のようなあからさまなおとり広告が横行しているということはなくなった。不動産会社が物件広告の更新作業を行った際の見落としや誤りによって、結果的におとり広告と判断されるケースがほとんどの印象がある。ただし、10年前くらいは、手法が巧妙化し、ポータルサイトの掲載ルールの裏をかいてくるような不動産会社はそれなりにいた。例えば「お得な物件」だと誤認させるやり方だ。

具体的には

契約期間が短い定期借家契約の物件を掲載するという手法だ。賃料は周辺の家賃相場より1~2割安くし、契約期間はわずか半年間といったものだ。半年で契約が終了するような条件では、積極的に借りたいユーザーはいないはずだ。

ユーザーは定期借家契約であることや契約期間が半年で終了するといった細かい事項を見落としがちだ。そもそも定期借家の意味を知らない場合も多いだろう。そのためこういった物件を意図的に掲載して反響をとるという手口だ。

実際にユーザーが不動産会社に来店すると、「これは半年で退去だから借りない方がいいですよ」と説明し、他の物件を紹介するわけだ。こういったことが起きないよう、掲載ルールの見直しを定期的に行い、おとり広告の可能性があると当社が判断した場合には厳しい措置を講じる事ができるように対応している。

広告への反響が目的だから手段を選ばなくなっていると。他には

これも昔の話になるが、貸す意思がない物件を掲載していたというケースだ。賃料を相場より安く設定し入居者募集をし、大家が入居審査で落とす。確かに募集はしているのでこれはおとり広告ではないというわけだ。

当社で調査したところ、物件の大家が掲載をする不動産会社と結託している事がわかった。このケースも当社の判断で当該物件の掲載をできないようにした。

正直不動産が普通になってきた

過去にはこういった話が結構あったが、最近は本当に聞かなった。

集客目的で「おとり広告」を行うよりも、誠実にユーザーと向き合うほうが良いと思う不動産会社が増えているのは間違いない。まさに「正直不動産」が普通になってきたことは喜ばしいことだ。

他の大手ポータルサイトでは

大手ポータルサイトは、掲載ルールをしっかりと定め、審査体制も構築されている。また当社同様、悪質なおとり広告を掲載する場合は取引停止等の対応をしている。そういったポータルサイト側のチェック体制も情報の精度があがっている理由の一つだと思っている。

シリーズ;不動産の”正直営業”はどこまで可能か??⑩へ続く

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