日本マンション学会は4月16、17の両日に学術大会を開催し、2020年に設置した「マンションの専門家に関する特別研究委員会」(委員長=齊藤広子・横浜市立大学教授)の中間報告を発表した。マンション管理士にスポットを当て、役割の明確化や活用の促進に向けて7つの論点を整理。管理士の独立性や業務独占の必要性、試験・研修制度の再構築、管理会社や他の専門家との連携などを挙げ、管理士の可能性について大会でも議論した。学会では今回の議論を踏まえ引き続き研究を進めるとともに、熟度に応じ国などへの提言活動も実施していく方針だ。
論点は▽役割・責任、必要性、▽試験制度、▽教育・研修、▽業務の執行、▽管理組合活用の支援、▽連携体制、▽その他―の7つ。役割・責任や必要性については、マンション管理適正化法で規定している管理士の業務の具体性や必要性を明確にすること、試験制度に関しては問題に対応できる能力を問う制度への見直しの是非を論点としている。教育・研修は経験を積む機会の確保や、求められる業務に応じたレベルや分野を分けた資格が必要かを議題にする。業務の執行では、管理士が業務に当たる上で士業法や保証制度の必要性がテーマ。管理組合活用の支援は組合とのマッチングの方法、連携体制では行政やほかの専門家との連携方法を議題に挙げている。
大会では、山根聡子・摂南大学講師が、日本マンション管理士会連合会の会員会である都道府県のマンション管理士会に所属する管理士を対象に、業務実態などに関して調査した結果を報告した。管理士が実施してきた業務について、回答では「管理規約の作成・変更」「大規模修繕工事関連」「管理費・修繕積立金の見直し」といった業務で半数以上が1件以上の経験があることに触れ「管理会社が取り扱いにくい業務であったり、管理組合が管理会社に依頼せずに行いたい業務とみられ、管理組合をサポートする上で管理会社からの独立性が求められている」と分析。試験制度や研修制度に関する調査では「業務経験者のもとで実務経験を積む機会が必要との回答が3分の2を占めており、経験別や分野別の資格を設けることも必要では」と解説したほか、習得が必要な知識に関する設問で「建築・設備」「建築一般」に関する知識がともに6割を超えていることを挙げ「試験の設問で設定するか、経験別・分野別の資格を設ける中で建築関連の知識の扱いを議論することもひとつの方法」と提起した。管理士による独占業務の必要性についての調査では、4分の3が「必要」と回答。委員会でも独占業務の必要性を考えていくべきではないかと指摘した。
その後小杉学・明海大学准教授が、委員会での議論や独自のヒアリングなどを踏まえた管理士活用の可能性について提案した。小杉准教授は国土交通省の2018年度マンション総合調査で、トラブルを抱える管理組合が約7割いたのに対し、その際に管理士を活用したケースが3%程度にとどまったことを挙げ、活用されない理由に「管理士についてよく知らない」「あえて活用しない」「活用したいができない」の3点を想定した。よく知らないことに対しては「管理士と管理会社の違いを明確にアピールすべきではないか」と述べた。あえて活用しないのは、現場での技術が不足している管理士が一定数存在することが全体のイメージを低下させていると推察し、管理士が進んで選ばれるだけの信頼の確保やランク別の資格の必要性に言及した。活用したいができないのは、活用したい管理組合役員がいたとしても理事会で賛成が得られないケースがあると説明した。
このうち、管理士と管理会社の違いについて、管理会社は定型的な業務を得意とするスペシャリストで、管理士はマンション全体に関する一定の知識を持ち、特定分野に詳しい専門家をつなぐジェネラリストという意見を紹介。また、管理会社が扱いにくい業務を担っていることなどを踏まえた役割分担を提起し、管理士が管理会社に代わって総会・理事会支援業務を担う意見があったことも報告した。委員会では賛否両論だったことを報告しつつ、「管理士の活用はむしろ管理会社も求めているのではないか。また、管理士のアドバイスが管理組合にとって効果があったかわかるまでに時間がかかるケースもあり、短期的に管理士の良し悪しを判断するのは難しい」とも述べ、理事会・総会の支援業務に管理士が関わることで長期的に業務に当たれる点、ジェネラリストしての役割が発揮できる点などで、支援業務の可能性に含みを持たせた。
2022年5月号 月刊マンションタイムズ