NHKテレビドラマ「正直不動産」では、「おとり広告」を巡る不動産営業についても触れられている。不動産ポータルサイト上のおとり広告の現状について、株式会社LIFULL(ライフル)の加藤哲哉氏に、過去の事例やLIFULL HOME'Sで現在行っている対策について話を聞いた。
加藤氏は大学卒業後、株式会社リクルートに入社し「住宅情報」(現・SUUMO)の広告営業や企画を担当。その後不動産事業者向けサービス事業を立ち上げリクルートから独立。現在はLIFULL HOME'Sの情報審査部門の他、不動産投資事業戦略室の室長を務める。
シリーズ;不動産の”正直営業”はどこまで可能か??⑨ より続く
ポータルサイト各社の連携は
例えばだが「RSC(不動産情報サイト事業者連絡協議会)」という団体があり、当社を含め大手ポータルサイトが加盟して連携をとっている。RSCはサイト利用者であるユーザーに対して、正確で安全な不動産情報を提供していくため、また不動産会社に対してより活用しやすい情報提供方法・システム等のあり方を研究・構築するために活動をしている。
それと併せて当社を含めた大手ポータルサイト4社は、(公社)首都圏不動産公正取引協議会(※)の下に置かれた「ポータルサイト広告適正化部会」のメンバーになっている。
おとり広告の撲滅に重点をおいており、年に2回、メンバーのポータルサイトが一丸となって、自社が運営するサイト上に掲載されている不動産広告の一斉調査を行い、調査結果は首都圏不動産公正取引協議会に共有をしている。
※(公社)首都圏不動産公正取引協議会: 消費者保護と事業者間の公正な競争を確保することを目的とする不動産の公正競争規約(表示規約と景品規約の2種類)を運用する不動産業界の自主規制団体。不動産の公正競争規約は、昭和38年より公正取引委員会の認定を受けている。
また、ユーザーや不動産会社からのおとり広告の指摘により、そこから違反が判明することもある。ポータルサイト間ではこういった物件の共有も行っており、ライバル会社同士でありながらも垣根を越えて協力しあえる体制を構築している。
タイミングのずれによるおとり広告の場合の対処は
現状、不動産会社の情報メンテナンス不足による申込・成約済み物件の掲載がLIFULL HOME'S掲載物件全体の数%程度はあると認識している。インターネット広告の時代になってからは、1店舗で数千物件の広告を掲載している場合があり、その物件の更新を店舗スタッフ数名で行うとなると、1名で数百物件を毎日最新情報に更新しなければならない。また、不動産会社は入居者を決めるための営業がメイン業務であるため、物件への案内や契約などを優先した結果、広告の更新の対応が遅れ、広告の更新作業が適切に行われず、過去の情報のまま掲載されつづけてしまう場合がある。
こうした課題に対し当社では一定期間メンテナンスしていない物件は自動的に掲載を落とす仕組みを導入している。しかし人気物件は掲載してすぐに申込が入ることも多く、サイト上に数日間掲載されたままの状態になっていることが起こり得る。
クリーニングミスによるおとり広告は無くならない
そこで当社が取り組んでいる施策がある。不動産管理会社と連携したシステム化の推進だ。管理会社が持つ物件データを当社へ提供してもらい、LIFULL HOME'Sに掲載中の物件と照合して、管理会社で募集が終了している場合、他社で掲載されているものを自動で非掲載にする仕組みを実現したものだ。この仕組みでクリーニングミスを補完している。このデータ提供に協力を頂ける管理会社も増加してきている。さらに情報精度は上がっていくだろう。
この仕組みについての反応は?
当社からこの仕組みの説明をすると業界全体の健全化、効率化は良い事であると考え協力していただけることが増えてきた。広告の更新ミスがあっても自動で広告がサイトから削除されるため、前向きにとらえて頂く声が多い。
掲載課金からの脱却も模索している
従来の不動産ポータルサイトの料金体系は、不動産会社が掲載したい物件数の枠に対して広告費用を払う「掲載課金モデル」だ。これに対し「LIFULL HOME'S」では、業界で初めて「反響課金」という料金プランを導入した。ユーザーからの反響数で課金される仕組みだ。この場合、募集終了している物件を掲載し続けると、問い合わせによる課金が増えるのみで、成約には結びつかない。従って「反響課金モデル」を取り入れることによって申込のあった物件は早く掲載を落とそうという心理が働き、情報鮮度が保たれやすくなると考えている。