不動産経済研究所は、「新たなフェーズを迎えた不動産・住宅市場とビジネスの進路」と題した不動産経営者講座を開催した。分譲マンション、オフィス、投資、ホテルなど各界から8名が登壇し、市場の足元と見通しなどを語った。今号と次号にわたって、セミナーの概要を紹介する。
新たなフェーズを迎えた不動産市場① より続く
都心6区の築浅中古マンションが価格上昇
賃料は首都圏、23区が天井感で弱含み
中古住宅流通市場の動向と今後の見通しについて、東京カンテイの井出武上席主任研究員が解説した。
築10年の中古マンションの坪単価の動きを見ると、東京23区に関しては、ほぼ上昇が継続している。ただ横浜市と川崎市は2021年後半からやや下落基調になり弱含んでいるが、傾向を見るうえでは、長期にわたって観測していく必要がある。都下は横ばいが続いていたが2021年後半から上昇が明確になっている。23区と同じような動きになっている。これまでは都市ごとに濃淡がなかったので、気になるポイントではある。
23区のエリア別平均坪単価を見ると、都心6区(千代田、中央、港、新宿、文京、渋谷区)は2019年までは急ピッチに上がっていたが、2020年後半から伸びが鈍化した。ただ、2021年後半から持ち直し完全に上昇している。築10年のデータなので築浅の動きと見てもいい。築浅を売る人は投資をする人が多い。だから投資家マインドがどう変化しているかが、こうした動きを表している。南西6区、北東11区の動きは地味だが、全体的に上昇しているので、マインドの変化が都心6区では強めに出るものの、それ以外では懸念材料がないまま推移している。
全築年の中古マンション平均坪単価の動きを見ると、東京23区のほか、都下、横浜市、川崎市とも上昇傾向が継続し懸念がない。しかも2021年に入ってから上昇が加速しているようにも見える。このことから、築浅の物件において投資家の動きが若干変化したことが見えているだけで、全体の中古マンションマーケットは極めて安定して上昇している。
新築マンションの賃料(新築分譲マンションの竣工後3年未満に発生した賃料)は、ほぼ投資の動きととらまえてもいい。2021年5月くらいから下がる動きが見えてきている。23区、横浜市はピーク時と比べると下がっている。首都圏と中部圏の賃料の伸びがやや弱含み、近畿圏は安定傾向が続いている。なぜ首都圏、とりわけ23区で弱含んでいるのかといえば、ある種の天井感が出てきているのではないか。23区をエリア別に見ると、都心6区が下落している。2019年までは賃料が上がり続けたため、明らかに鈍化した傾向が強く感じられる。南西6区はほぼ横ばい、北東11区は非常に緩やかでありながら上昇が続いている。賃料を上昇させるには限度があるので、上げる余地があるのかないのかを探り制限がかかっているのではないか。
比較のために全築年の新築マンションの賃料を見ると、都心6区と南西6区は昨年の後半からやや下落傾向にある。都心6区に関しては、貸主が投資家であっても借主が実需なので、賃料水準の限界が近づいている、あるいはすでに天井感が出ているのかもしれない。
今後考えられる市場の変化として3つの可能性がある。戸建てを見ていると、新築戸建ては明らかに面積を広くする動きが出ている。そうした物件の売れ行きがいいので、広さを重視する価値観が出てくる可能性が高いのではないか。2つ目はマンションは価格が高すぎるのではないかということに対する一定のリスクを考えなければならないこと。金利も上昇するなか、リスクヘッジを考えたマーケットの動きを取らざるを得ない。そうすると最終的には都市選びがより慎重になっていく。ただ、その結果、何かが変わるわけではなく、コロナ前に言われていたピン立地に収れんされていく。賃料の上昇余地のあるエリアは、まだ価格を上げても収益力を損ねずに済むので、こうしたところのニーズが高まる。
2022/4/5 不動産経済ファンドレビュー