不動産経済研究所は、「新たなフェーズを迎えた不動産・住宅市場とビジネスの進路」と題した不動産経営者講座を開催した。今号ではグローバル投資家から見た日本の不動産投資市場と、コロナ禍におけるホテル市場に焦点を当てた講演を紹介する。
2021年は米欧アジアとも過去最高の取引
海外投資家にとっては日本は引続き魅力的
「グローバル投資家から見た日本の不動産市場と投資スタンス」について、CBRインベストメントマネジメント・ジャパンの藤田哲也社長が講演。2021年はアメリカ、アジア、ヨーロッパの3つのマーケットはいずれも最高の取引高を記録した。不動産マーケットを考える場合に、グローバルのクロスボーダーキャピタルの動きを把握することが、今後の動きを考えるうえで非常に重要だと考えている。
グローバル不動産投資市場は、投資家による投資意欲の強さが際立った1年と言える。去年は1.3兆ドルの資金が商業用不動産に流れ、2020年と比べて5割増、2019年比では2割増という高い水準だった。これを支えたのが2020年比で34%増となったグローバルのクロスボーダーキャピタルであり、総額が3000億ドルに上る。昨年の世界の不動産マーケットの特徴を見ると、とりわけグローバルに物流と賃貸住宅への投資が多かった。2つ目のポイントは、パンデミックからエンデミックを見据えたうえで、今後の不動産の経済のリバウンドを期待した動きがあった。アメリカは物流と住宅への投資が加速した。社会の構造変化に合致したセクターなので、ここに資金が流入し、オフィス、リテールからの資金の移行が見られた。オフィスへの投資割合は昨年、初めて2割以下になり、低調だった。この流れは欧州でも同様で、物流と住宅への投資額が過去最高となっている。一方で、オフィスとリテールは全投資額において過去最低の水準となった。一方、APACは、これも同様で、物流と住宅への投資が盛んだったが、それに加えて、オフィス、リテール、ホテルでも前年を上回る投資となった。
日本の不動産マーケットはどうだったのか。昨年の取引額は、前年比マイナス22%で着地をしている。ただ、第3Qまでは前年通り、4Q に大きく落ち込んだに過ぎず、引き続き活発な1年であったと言える。昨年は大型オフィスのセールス&リースバックの取引が散見された。売買マーケットが非常に強かったので、ノンコアの物件を売却する一般企業が多かった。当社においても工場の閉鎖、移転に伴う土地、ノンコアビジネスの土地を取得し、物流の開発用地として活用した事例もある。こうした事業会社による売却の属性が2割を超えたことも過去最高の割合だった。
買主の属性は、取得金額に占める機関投資家、年金、生保、私募ファンドの取得割合が拡大した。またクロスボーダーによる取引が全体の28%になっており、取得額は計80億ドルで2019年と同レベルだった。資金の特徴としては、投資エリアが東京以外の地方へ拡散し、その背景はより高い利回りを志向した結果だ。セクターは賃貸住宅も強かったのだが、物流が倍増し、オフィスやホテル投資が戻ってきた。
ポストコロナの投資スタンスがどうなっていくのか。コロナ前から期待利回りは下がってきており、コロナに入ってもホテルを除いては下がり続けている。高い価格であっても不動産への強い投資意欲がうかがえ、イールドスプレッドが大きな魅力となっている。また、海外との為替のプレミアムが有利に働くので、海外投資家にとっては日本は引続き魅力的なマーケットに映る。
注目すべきセクターは、物流とデータセンター。われわれも賃貸住宅と物流に投資を注力しているが、物流においては稼働済みの物件はかなりCapレートが下がっており、投資のうまみも薄れているが、それでもなお、開発リスクを取りながら安定稼働させる、そうした手法はまだまだ有効ではないか。われわれも投資を加速しようと思っている。さらには、クラウドニーズの拡大によって、データセンターサービス市場は大きくなっている。過去5年の年間成長率は12~13%を示しているので、DCそのものへのニーズはこれからも増えていくだろう。
2022/4/15 不動産経済ファンドレビュー