新たなフェーズを迎えた不動産市場① 「コロナ後を見据えた企業のオフィス戦略と市場の行方」ザイマックス不動産総合研究所・山方俊彦主任研究員
不動産経済ファンドレビュー


 不動産経済研究所は、「新たなフェーズを迎えた不動産・住宅市場とビジネスの進路」と題した不動産経営者講座を開催した。分譲マンション、オフィス、投資、ホテルなど各界から8名が登壇し、市場の足元と見通しなどを語った。今号と次号にわたって、セミナーの概要を紹介する。


ワークプレイス戦略の見直しで移転企業増える
メインオフィスは役割の明確化が再認識


 「コロナ後を見据えた企業のオフィス戦略と市場の行方」について、ザイマックス不動産総合研究所の山方俊彦主任研究員が講演。23区のオフィスマーケットは賃料が下がり空室率が上がる局面にある。空室増加が続いているものの、一方で空室消化も増えてきている。エリア別ではここにきて都心5区の空室が積み上がっており、空室件数は周辺18区より増加ペースが速い。今まで市場に空室がなかったのは、都心、大規模、大区画だったが、今はエリア、ビルの規模を問わず、いろいろな空室が出てきた状況だ。


 都心では2020年4Qから急激に移転決定件数が増えている。移転理由は、2020年に「経費削減」が急激に増え、2021年は「業務効率化」が中心となり、ポジティブな移転が増えてきている。空室が増加するマーケット環境は不動産事業者にとって逆風だが、テナントにとっては移転先の候補が増えて、賃料が安く移転出来る好機とも言える。今後はワークプレイス戦略の見直しを行う企業が増え、移転が増加してくるだろう。


 オフィスマーケットの今後の行方を見る。23区における新規供給量は、2022年~2025年の4年間で年平均15.2万坪、2012年~2021年の年平均17.8万坪と比べて少ない。今後4年間の供給量はオフィスストックに対する割合が4.7%(年平均1.2%)程度。過去10年平均を下回る水準であり、都心部のオフィスストックに対する割合で見た時、インパクトは弱い。われわれがこれから読むべきことは需要だ。


 今後のオフィスマーケットの行方は、企業業績がどうなるか、人を増やすのか減らすのか、賃料コストをどうするのか、テレワークに伴うオフィスをどうするのか、こうしたことで空室率が上がる要素もあれば下がる要素もある。需要は、業種・業態によって大きな差がある。過去の金融ショック時とは異なり、政府等による下支えもあった。もちろんコロナがどうなるかもあるが、景気は2020年春夏のように悪くなるのかは疑問だ。日本経済は緩やかなりにも成長しており、第3次産業割合は増加しオフィスニーズはなくならない。


 ワークプレイス戦略は企業規模や業種で自社に合った戦略を見直している最中。そしてメインオフィスは人の集まることの重要性、役割の明確化が再認識されている。例えば、1人当たりの人件費はオフィス賃料の10倍かかると言われている。そのため、賃料を下げることにつながるのだが、それよりも社員の生産性を上げることを、より重視することに気づくのではないか。


 今後、オフィスビルに求めるものの多様化が起こり、今までのエリア、立地の考え方が変わってくる可能性がある。例えばサテライトオフィスは社員が目的を持って使うため、必ずしも駅前に立地する必要はない。むしろ奥まってゆっくり集中出来る空中階にあってもいい。競争力の劣ったビルでも、そうしたニーズを取り込むことが出来る可能性が増えてくる。必要なオフィス床面積の考え方も変わってくる。企業はすでにいろいろ動き出している。過去の常識は当てはまらなくなってきた。市況がいい時は、ある意味何もしなくとも空室は埋まり、賃料は上がる。時代の変革期を迎えたこのような時期こそ、不動産プロフェッショナルが真価を発揮する時だと考えている。

新たなフェーズを迎えた不動産市場② へ続く

2022/4/5 不動産経済ファンドレビュー

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