【不動産取引・全面ネット化解禁間近】業界大変革につながるのか ―オンライン取引と不動産IDの行方(上)
不動産経済ファンドレビュー

昨年7月には専任宅地建物取引士のテレワークが承認され、今年5月には不動産取引3大書面の電子化がいよいよ正式に解禁される。しかし書面の電子化には遵守・留意すべき事項が事細かく整備・ルール化される。一方、不動産関連情報の連携・蓄積・活用を推進する「不動産ID」のルール化は今年度中に決定される予定だ。本格的デジタル社会を迎える中、不動産業界に大変革時代が訪れるのか注目される。


専任宅地建物取引士のテレワーク可能に
コロナ禍の特例措置から恒久的措置へ

 
 国土交通省は昨年7月、宅建業法の解釈・運用を変更し、専任宅地建物取引士のテレワークを可能とすることにした。当初は2020年5月にコロナ禍の特例措置として、テレワークをしている場合でも専任の宅建士としての規定に抵触しない取り扱いとする旨を事務連絡として発出していたものだ。
ところがその後もコロナ感染が続き、不動産取引のオンライン化に対する需要が高まり続け、2021年5月には「デジタル社会の形成を図るための関係法の整備に関する法律」(デジタル法)が成立したことなども踏まえ、同年7月に恒久的措置に切り替えることにした。運用の変更として、専任の要件となっている“常勤”の定義の中に「ITの活用等により適切な業務ができる体制を確保した上で、宅地建物取引業者の事務所以外において通常の勤務時間を勤務する場合を含む」という文言を付け加えている。
しかし、不動産業者からは「そうはいっても実態として難しいのでは」「適切な業務ができる体制とは何か」といった疑問も寄せられていることから、国交省は現在改めて実態上の問題があるかどうかを調査している。

3大書面の電子化、5月にいよいよ解禁
国交省の「検証検討会」が詳細ルールを整備中


 デジタル法の成立(昨年5月19日)により宅建業法の書面規定が改正された。3大書面といわれる重要事項説明書、売買契約書、媒介契約書の交付と記名押印義務が廃止され、今年5月18日までに施行されることになった。施行後は相手方の承認を得た上で電磁的方法で紙の書面に代えることができる。この書面交付と説明のオンライン化については8年ほど前から社会実験を重ね、賃貸取引については2017年から、売買取引については2021年から始めていた本格運用を経て、いよいよ法的に正式に認められることになる。ただし、これまでの社会実験における問題点を踏まえ安全に実施していくためのルールを国交省の社会実験に関する検証検討会が現在検討中だ。同検討会は書面電子化に当たってのルールを「遵守すべき事項」と「留意すべき事項」の2種類に分けて整理し、今年5月の法施行に備える。

遵守すべき事項の案として挙がっている主なものは次の通り。
①電子書面を用いることについてあらかじめ書面(紙または電子)によって相手方の承諾を得る。

②ダウンロード形式の場合、相手方にダウンロード可能である旨を通知する(社会実験時のルールにはなかったもの)。

③電子書面を交付後、相手方に到達しているかを確認する。

④交付する電子書面が紙書面に出力可能であること。

⑤書面が説明時点及び将来においても、改変が行われていないかどうかを確認できる措置を講じていること――など。


留意すべき事項の案として挙がっている主なものは次の通り。
①相手方が電子書面が改変されていないことを容易に確認できるよう電子署名やタイムスタンプを利用することが望ましい。

②相手方が電子媒体を用いた取引に不慣れな場合があるため、操作方法、特に改変されていないことを確認する仕方についてはどこをどうやって確認すればいいのかを丁寧に説明することが望ましい(社会実験時のルールにはなかったもの)。

③相手方がスマートフォンのみを用いる場合にはパソコンとの表示上の違いや改変されていないことの確認方法の違いに留意し特に丁寧な対応を行うことが望ましい(社会実験時のルールにはなかったもの)。

 このように守るべき事細かなルールの数は結構多くなりそうだ。そのため、書面の電子化がどこまで普及するのかを危ぶむ声もある。現に不動産会社に電子化のためのシステム導入を勧めているテック企業によれば、肝心のここにきて導入を見合わせる中小不動産会社が増え始めたという。

【不動産取引・全面ネット化解禁間近】業界大変革につながるのか ―オンライン取引と不動産IDの行方(下)へ続く

2022/3/5 不動産経済ファンドレビュー

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