サードプレイスオフィスの一形態である「サテライトオフィス」がコロナによる出社制限を機に、ここにきて需要・供給とも急増している。中でも「3密」を避けることのできる個室タイプが人気を集めている。在宅勤務は要請されたものの、自宅では仕事を進めにくい人たちが最寄り駅近くの拠点を利用するケースが増えているからだ。急拡大のきっかけはコロナだが、その背景には「集中から分散へ」という新たな価値観の台頭と、それに基づく大きな社会変革が垣間見える。
家でも会社でもない「第3の場所」
コロナで郊外拠点の需要高まる
働くだけではない豊かな生活に対するニーズが生んだ「第3の場所」という概念がある。つまり、家(第1)と会社(第2)を往復するだけではなく、寄り道できる第3の場所を設けることで生活にゆとりと変化をもたせたいという欲求である。そこで、働き方のほうから変化を持たせたのがサードプレイスオフィスである。
サードプレイスオフィスは2011年頃から出始めているがその形態は様々。シェアオフィス、サテライトオフィス、モバイルワークオフィス、コワーキングスペース、レンタルオフィスなどがあり、コンセプトも微妙に異なる。もともとはモバイルワークをする場所として供給されることが多かったものの、コロナでその役割が大きく変わった。在宅勤務を強いられる人たちが増えたが、自宅でテレワークができる環境を整えられる人は少なく、自宅から会社に行くまでの途中にある第3のオフィスを利用したいというニーズが急速に高まっている。
特に、「3密回避」のため他人と接触しやすいコワーキングスペースは敬遠され、1人で利用できる個室タイプのサテライトオフィスが人気だ。個室タイプの人気が高いのは「3密回避」だけではない。本来なら会社内でやる仕事を外部で行うわけだから、情報管理、セキュリティの問題が重要になる。オープン型では仕事の途中で気軽に席を離れるというわけにはいかない。個室型なら鍵を掛けることができるので安心だ。
こうした場所を分単位で貸すビジネスをいち早く手掛けたザイマックスの商品「ZXY(ジザイ)」の契約会員数が、今年4月の22万5000人から、8月時点には30万5000人にも達していることからも、コロナがいかに需要を増大させているかがよく分かる。
同社のオープン済み拠点数は現在103カ所だが、横浜駅西口には既に3カ所、中央線の立川、総武線の西船橋(2カ所)、船橋、津田沼など郊外への拡大傾向が顕著になっているという。また、仕事をしている間は子供を預けることができる「キッズスペース付き拠点」が全体の約半数を占めているのも注目に値する。つまり、共働き世帯や母子家庭など働く女性にとって強い味方にもなっているのである。
ザイマックス総研の調査(2020年1月)によると、東京23区内にあるこうしたサードプレイスオフィス全体の数は569件で床面積は約16万坪。23区全体の既存のオフィス総面積に対して1.2%に相当する。ロンドンやニューヨークでは3~5%あるといわれているので、その意味でもまだまだ拡大の期待が高まる。
2020/12/5 不動産経済ファンドレビュー