【インタビュー】池本・SUUMO編集長がZEH水準の賃貸住宅を大宮近郊に。拘りの断熱・設備仕様で短期で20代女性を中心にほぼ満室(上)より続く

コストアップと家賃への反映について

 こうした拘りにより、当然のことながらコストはアップしている。上がった分を家賃に全てのせて10年程度で回収できる、というのが一つの理想だが、高くて借りてくれないリスクもある。管理会社からも厳しいと。コストアップ分の6割程度を家賃に乗せた。残りの4割程度は家賃空白期間の削減と考えた。まず入居者が満足する仕様としているなら、そう易々とは退去されないはずだと。その分空室が発生するリスクが減って家賃空白期間が相応に短くなるだろう。そう考えた。
 またこのエリアでは1階と2階で2000円くらいの家賃差をつける。今回それをゼロにした。1階でも2階と同じ家賃にチャレンジした。コスト計算だが、遠赤外線の電気式床暖房の新規導入費でと、無垢床の無垢の床が1部屋あたり16万円くらいで、通常のフロアタイプの通常のフロアタイル仕様との差額で言を合わせるとえばプラス12万円くらい。つまり一部屋あたり24万円、オーナーとしては負担が増えた。だが家賃は2000円分上がるので、1年間で2万4000円のプラス。計算上10年で回収できる計算だ。それを長いと見るかどうかだ。
 

申込み状況と融資について

 

 昨年12月下旬から募集を開始して、約1か月半で15戸中14戸が成約した。内訳は20代女性が8割強、20代男性が2割弱ということでほぼ当初の見立ての通り。元の住まいは埼玉県以外の方が半数ほどで、主に新規の就職で探された方が多い様子。この物件を選んだ理由を聞くと、駅近くで閑静という立地に加えて「部屋自体」がとにかく気に入った、という方が多い。具体的には1番は内装デザイン、2番はキッチン、3番目が洗面所だった。窓・断熱は4番目だった。内装や設備をしっかりやっておいて良かったと思う一方で、4番目に窓・断熱が来ているのは想定よりは優先度が高いことが確認できた 融資は劣化等級3を取得すれば35年ローンが組める金融機関がありそこにお願いした。35年融資だと、毎年の手残りが格段によくなる。それだからこそ仕様を良くできた点もある。「賃貸の良質化」には品質を良くしたら「返済期間を延ばしてくれる」金融のインセンティブが必要だと身をもって感じた。

 施工は埼玉県内にある注文住宅もやっている建設会社だ。土地は元々は建売用地で建築条件付きの土地だった。接道の関係もあり、2宅地の建売用地としては売れゆきが厳しかったので、賃貸用地にできないかを、仲介会社が音頭を取り、建設会社と管理会社と連携し想定利回りを算出した状態で案内を受けた。

 
省エネ仕様について

 省エネ性能を大きく左右するのは開口部のサッシの仕様だ。当初の建設会社が出してきたサッシは、LIXILの「サーモスシリーズ」で、アルミ樹脂複合のタイプだった。これでも悪くはないが、より断熱性能を高めるため、樹脂ペアガラスのYKKのAPW330(331)にした。床下と外壁の断熱性も高めた。床下と外壁の断熱材は、当初仕様ではネオマフォームの45mmだったが、これを60mmに変更した。1階と2階の天井裏のグラスウールについては当初仕様の24k 50mmから変更していない。
 一次消費エネルギー(BEI)は計算すると「0.74~0.79」となった。国が求めている基準(1.0)を20%以上下回り、ZEH水準の性能だ。(BEI=設計一次省エネルギー消費量/基準一次エネルギー消費量)賃貸住宅でも高い省エネ性能が求められてくる。微力ながらこの物件を通じてその旗振りをしたい。
 
 給湯器は普通のものだ。プロパンにするか都市ガスかで悩んだ。都市ガスの方が入居者負担は安いが、ガスの引き込み代とか給湯器はオーナー負担となる。見積もりを取ったら結構高い。一方でプロパンは市場競争が過熱しているせいでサービスが良い。ガス設備・設置費用のほか付帯設備のサービスが充実していた。
 でも入居者負担が増えることには大いに葛藤した。計算すると同じ生活をしていたら、都市ガスよりもプロパンの方が1.5倍くらいコストは高い。一人暮らしの月額利用量ベースだと、都市ガスだと2000円前後が、プロパンだと3000〜3500円ぐらいだろう。ファミリー用だとプロパンの高い光熱費は退去リスクが大きいが、ひとり暮らしならプロパン化で浮いたコストを高性能サッシや断熱強化に振り向けたほうが、入居者満足は高いのではないかと考えた。

省エネについての入居者からの反応

 入居者に実施したアンケート結果を見ると、「(拘った)内装で家賃をアップしてもいいか」「高い断熱仕様で家賃アップしてもいいか」との設問に、許容ゼロから1万円アップまで許容するという回答まで幅があった。傾向としては家賃予算額が高い人ほど、内装や断熱への許容額が高い。内装が5000円、断熱が3000円くらいが平均だ。同エリアの中の、少しハイプライスゾーンの属性を狙っていくという設定であれば、許容層はいる。そこに訴求できればいいと割り切れば、もう少し家賃を上げることができたかもしれない。
 物件見学時はどうしても内装や設備に目が行く。管理会社も案内時に断熱性能はどこまで伝えてくれるか未知数と思ったので、高性能サッシについては案内チラシとか、ポータルサイトのキャッチコピーで入れた。宅配ボックスとかネット無料とか他物件にもある文言が入っていたのを修正したり、自分で撮影した写真の掲載のお願いをしたりもした。

 
目指したいのは「だんだん家賃が上がる賃貸住宅」  

 周辺相場よりも3000~4000円、率にしておよそ5~7%アップした。例えば1階の部屋は無垢材・床暖房を採用したから5000円程度上げている。今後、空室が出たら賃料をもう少し高く設定して募集していきたい。目指したいのは入居者が快適すぎて退去しない、そしてだんだん家賃が上がる賃貸住宅だ。

コメントをどうぞ
最新情報はTwitterにて!

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

Twitterでフォローしよう

おすすめ記事