国土交通省が発表した20年7月1日時点の「都道府県地価」は、全国的な地価調査としては初めて新型コロナウイルス感染症の影響を織り込んだ。上昇を続けてきた地価はコロナ禍によって急ブレーキをかけられ、全国全用途平均の変動率は3年ぶりに下落に転じた。実際の土地取引も緊急事態宣言中は激減しており、取引がストップした時期でもあった。
地点ごとにみると、ホテルや飲食店舗が集積するエリアや観光需要で地価を大きく伸ばしてきたエリアほど影響が大きい。クラスターの発生が連日報道された東京・新宿の歌舞伎町エリアの地点(新宿5-1)は前年比△5・0%となった。三大都市圏の中では下落基調が鮮明だった名古屋圏の名古屋市中区栄3丁目の地点(中5-11)は△8・9%と、都心部の標準地としては最も下落幅が大きかった。
ただ、全国で最高価格の明治屋銀座ビルの地点(中央5-13)は12年調査と比べれば2倍を超えており、9年ぶりに下落(△5・1%)したとはいえ、いまなお高値圏にあるともいえる。都道府県地価の全国全用途の平均価格をさかのぼると、13年から上昇が続いており、7年間で35・6%上昇した。今回は△0・6%となったが、リーマンショック翌年の09年地価調査(△4・4%)と比べると、下落の幅としてはまだ小さい。同じエリアでも地価の動向は変わり、新宿では駅東口の歌舞伎町が下落する一方で、西口の新宿住友ビルの地点では3・9%の上昇となった。
地価のトレンドが下落局面に入ったかどうかを今回の調査結果のみで判断するのは難しく、コロナ禍の影響も数カ月分しか反映できていない。足元の状況では、ホテルや飲食店舗などは厳しい状況が続くが、首都圏の新築分譲マンション市場や中古マンション市場は回復基調にあり、堅調さもうかがえる。郊外戸建ての人気ぶりや、急拡大するeコマース市場を受けて好調な物流施設の影響などは7月1日時点では本格的には織り込んでいないとみられる。「新しい生活様式」を受けた住宅や働き方の変化が地価に反映されるのは、少なくとも来年3月発表の地価公示(来年1月1時点)を待つ必要がありそうだ。
◎倶知安町は上昇率が鈍化、1位は宮古島に
上昇の勢いは鈍化したものの、地価上昇が続いている地点も少なくない。昨年まで商業地で全国トップの上昇率だった北海道・倶知安町の地点(倶知安5-1)は、昨年の前年比+66・7%から、今回は+32・0%と幅は縮まったものの、コロナ禍という特殊な状況でも年間では3割を超える上昇となった。倶知安町は国際的なスノーリゾートとなったニセコを抱える。ニセコの不動産を別荘用地などとして求める外国人は渡航制限によって、来日ができないため足元では取引件数は減少しているが、コロナ禍を懸念して所有不動産を投げ売りするような動きはみられない。ニセコの事情に詳しい不動産関係者は「アフターコロナでのインバウンド需要のリバウンドに期待している」と話す。
倶知安町の地点に代わって全国トップの上昇率となったのは、沖縄県宮古島市の地点(宮古島5-1)で+38・9%だった。宮古島市の地点は上昇率上位10位以内に3地点が入った。同市では宮古島と伊良部島を結ぶ海上橋の伊良部大橋が15年に開業して以降、観光客は大幅に増加している。15年に50万人だった観光客は昨年、113万人と4年間で2倍以上に増えている。同じく離島リゾートとして人気な石垣市の観光客が4年間で3割強の増加だったのに比べると、宮古島市の人気が鮮明だ。ホテル開業などに伴うホテル従業員や建設作業員向けの賃貸住宅の着工が大幅に増え、地価の押し上げ要因となっている。ただ、住宅着工件数自体はピークを過ぎており、コロナ禍の影響も踏まえると今後も地価の大幅な上昇が続くかは見通せない。
宮古島市を含め沖縄県内はここ数年、旺盛な観光需要を受け、都道府県別では最も地価が上昇してきた。今回も大幅に伸びた地点は多いが、一方で繁華性の高い地点では下落したところもあった。那覇市の国際通りから一本入った地点(那覇5-8)は△2・5%、恩納村の幹線道路の地点(恩納村5-1)は△4・7%となった。いずれも観光客向けの店舗が立ち並ぶエリアだった。
コロナ禍が今回の都道府県地価にどの程度の影響を与えたのか。地価公示との共通地点(1615地点)からある程度みえてくる。今年1月1日時点以降の変動率をみると、大阪市中心部の心斎橋エリアの地点(中央5-3)は△18・8%、台東区西浅草の地点(台東5-17)は△11・1%、名古屋市熱田区の地点(熱田5-3)が△10・9%、金沢市片町の地点(金沢5-4)が△8・7%だった。一方、1月以降でも上昇した地点もあり、仙台市若林区の地点(若林5-4)が+5・3%、沖縄県豊見城市の地点(豊見城9-1)が+5・1%、札幌市中央区の地点(札幌中央0-2)は+3・7%だった。共通地点のうち、下落は6割、横ばいは3割、上昇は1割だった。
2020/10/01 日刊不動産経済通信