総務省の21年住民基本台帳人口移動報告によると、都道府県別で転入超過となった都道府県は東京都など10都府県だった。ただし東京都は転入超過数が最も縮小(2万5692人)し、23区に限っては5000人以上が転出した。不動産情報サイト各社の調査でも「人気の街」に郊外の駅がランキングされることは珍しいことでもなくなっている。一方、東日本不動産流通機構の調べによると、首都圏の中古戸建ての成約数が過去最高を記録。郊外エリアの転出が顕在化した結果だろうか。LIFULL HOME'S 総研の中山登志朗・副所長 チーフアナリストと、LIFULL HOME'S 住まいの窓口の高瀬一輝氏に、コロナや人口動態を踏まえた中古戸建てのニーズや、今後の中古戸建ての市場について展望を聞いた。
ー中古マンション市場は活況で、在庫が減少し価格は上昇している。一方で中古戸建てのニーズはどうなっているのか。
中山氏 中古マンションは流通が減って、需給バランスはタイトだ。東日本不動産流通機構の調査によれば、首都圏の中古マンション価格は昨年1年間で10〜20%近く上昇している。足元の状況も変わっていない。エリア別で見れば都心・近郊を中心に値上がりの傾向が目立つ。
一方で中古戸建ての価格は横ばいからやや上昇で推移している。少なくとも価格は弱含みではない。価格が安定しているとも言える。成約件数もコロナの前と比べると伸びてはいる。
中古マンションについては、売り控えが大変多いのが気になる点だ。物件が市場に出てこない。需要が増えた、というよりも供給が減った。そのため買い替えが減っている。でも中古戸建てはそこまで極端な状況にはない。都内でも23区外とか、神奈川の県央エリア、埼玉・千葉といったところ。このあたりのエリアの中古戸建てのニーズや取引の状況はコロナの前とそう大きくは変わっていない。
大きく言えば、戸建てはマンションのように需給がタイト、という状況ではないのだが、弊社のサイト「ライフルホームズ」に掲載されている中古戸建ての掲載件数は、コロナ前の19年の水準と比較すると2、3割は減っている。中古マンションにあるような、「売り惜しみ」ではなくて、買い替えを控える動きが出ている。
エリア別でみれば ベッドタウンとして人気の「本厚木」「藤沢」「大磯」「平塚」といった神奈川の県央・湘南エリア、千葉だと「柏」とか利便性の高いエリアなどの中古戸建ては価格が上昇しているように見受けられる。
ーコロナとの関連をどう見るか。
中山氏 中古戸建ては、コロナ禍をきっかけに需要が顕在化しつつあるということが言える。郊外の中古戸建てのニーズはこれまでかなり限定的だった。中古を売ってより中心部に近いマンション、駅近のマンションとかへの住み替えというケースがこれまでは多かった。
ただしコロナ禍によって住宅購入の郊外化が一部では発生している。「買って住みたい街ランキング」で本厚木は3位。こうした郊外エリアで、買って住みたいニーズは増えている。
20年4月の段階ではコロナの実態が掴めず、富裕層を中心に「軽井沢」「箱根」「沖縄」だとか、セカンドハウス需要で人との密を避けるような時期があった。これが今では少し都心寄りの「小田原」とか「藤沢」とか「上尾」とかその辺に近づく現象が起きた。住宅ニーズを見る限り、完全にウィズコロナになった。こうした状況で、郊外の中古戸建てを買いたいというニーズが顕在化した。
21年は緊急事態宣言下の日が多くなり、まんえん防止措置の日も合わせれば231日に達している。こうした非常事態が日常のものとなったことで、人々の気持ちは二つに分かれた。一つは郊外に住みたくなった、という人もいれば、将来的にコロナが収束したら郊外ではダメだから、都心に家を持つべきだ、という都心ニーズの二極化が生まれた。こうした点から、中古戸建のニーズは、一定数はあるものの、先を争って買いに走っているような、そういう状況ではない。
シリーズ;コロナ禍の人口移動、首都圏への流入続く④ 中古戸建て成約数が過去最高 へ続く