三井住友トラスト基礎研究所がまとめた調査によると、2021年6月末時点の不動産私募ファンド市場規模(運用資産額ベース)は推計23.4兆円だった。前回調査の2020年12月末時点と比べ約9000億円増加し、増加ペースは前回調査時と比べてやや減速したものの、新型コロナウイルス感染症拡大の環境下においても国内不動産私募ファンドの市場規模の拡大が継続している。投資家の投資意欲については「変化はない」が依然として7割超ながら、「低くなってきている」が2%まで低下。また、2021年上半期に物件取得を行ったとする回答割合は72.5%と過去最大となった。同時期に物件売却を行ったとする回答割合も過半を占め、コロナ禍においても積極的に資産の入替えを行っている運用会社が多いこともわかった。同調査は年2回アンケート方式で実施し、43社の不動産運用会社から回答を得た。
デット資金の調達環境に関しては、この半年で大きな変化は見られず、一部でみられた厳格化の動きは収まっている。エクイティ投資家の投資意欲は「変化はない」が73%で過半を占めるものの、一時33%まで増えた「低くなってきている」が2%に縮小、「高くなってきている」が24%へ増加した。新型コロナウイルス感染症拡大により、一旦低下したエクイティ投資家の投資意欲は、コロナ禍が継続する中でも投資意欲は回復している。投資家属性別の投資額は、すべての投資家属性で「横ばい」が6割超を占めるが、海外投資家では「増加」が「減少」を上回り、この半年で日本への投資額が増加している。一方、国内投資家は投資マインドの弱さがうかがえ、国内地方銀行は17%が「減少」と回答した。
プロパティタイプ別の投資額は、国内投資家・海外投資家ともに「住宅」と「物流」を増やし、「商業施設」「ホテル」を絞る傾向が続くなか、住宅と物流の増加の勢いはやや弱まり、商業とホテルの減少には歯止めがかかっている。ホテルは海外投資家中心に「やや増加」の回答が増加、オフィスは「やや減少」の回答が前回調査と比べて、国内投資家が32%から15%、海外投資家が26%から17%へ明らかに低下している。
2021年上半期に物件取得を行ったとする回答割合は72.5%で2018年上半期を上回り過去最大。
現在運用中のファンドについて、運用資産残高に占める物件タイプ別の投資割合は、「オフィス」「物流」で計63.8%を占める。同様にエリアは「東京23区」「首都圏」で計73.5%、「近畿圏」まで含めると90.0%と大部分を占めることがわかった。
今後1年以内のファンド組成については、運用スタイルが「コア」が7割超で変わらず、投資対象プロパティタイプは住宅が29%、オフィスと商業施設がそれぞれ21%、物流が14%まで伸ばしている。投資対象エリアは東京23区と首都圏を落とす一方、近畿圏、地方圏の割合が増加している。
LTV水準は63.6%に低下し、調査では、「今後1年についてレンダーの融資態度の厳格化および不動産価格の下落に対する警戒感が再び高まっている可能性がある」と指摘。またコロナ禍が長期化し、企業業績への影響や賃料の弱含みを懸念する声が聞かれる一方で、現時点では投資家の旺盛な投資意欲に下支えされる形で不動産価格は目に見えて低下していないことから、「新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた直後よりは運用会社の悲観的な見方も後退している可能性がある」とみている。
2021/10/5 不動産経済ファンドレビュー