≪不動産経済ファンドレビュー≫DXとリノベの方向性を見る―不動産経営者講座から
不動産経済ファンドレビュー

不動産経済研究所は4月、「多様化する需要構造にどう対応するか」と題した不動産経営者講座を開催した。新たな事業機会の獲得に向けて不動産各分野から7名が登壇し、足元と市場の見通しなどを語った。前号に引続き、セミナーの概要のうちDXとリノベーションについて紹介する。

デジタル化は進んでも変革はこれから ーDXでデータ駆動型社会を目指す 「不動産DXの最新動向と今後の方向性」と題して、野村総合研究所の谷山智彦チーフリサーチャーが講演。DXやテック領域で最近話題となっているのは、ChatGPTと呼ばれるような新しい人工知能の活用方法。専門的な領域についても、人工知能に業務を委ねられる可能性が出てきた。われわれは現在、超スマート社会Society5.0の入口に立っている。この社会では、データを収集、蓄積、解析し、それを再び制御・サービスとして構築するというデータ駆動型システムを作ることが重要な概念となる。
 具体的に、不動産ビジネスを含めた産業および事業にどのような変化が起こっているのかというと、1点目はカスタマイズもしくはパーソナライズで、個々のニーズに合わせたサービスの提供が可能となった。2点目はシェアリング。個別のニーズを捉え、社会的資産とマッチングをしたりシェアリングをしたりすることができている。3点目は、一部業務をロボット等によって代替する業務効率化という動きに加えて、製品がサービス化へと変わっていく産業構造そのものの変化がある。
また、DXの定義も定まってきた。いわく、企業として競争上の優位性を確立する戦略論の1つであり、デジタルを用いて産業内の制度や組織文化自体の変革を促す取組みという点では、従来のデジタル化とは異なる。変革の中で付加価値額を増やし、新しいサービスや市場を作っていくことに本来のメリットはある。だが、不動産業では約2割の方々が実施をするに留まり、デジタル化は進んでもトランスフォーメーション=変革はこれからという段階だ。不動産ビジネスは非常にすそ野が広いからこそ、多様なテック系サービスが登場し、今後も拡大を予測する。政府も、建築のBIM、PLATEAUという3D都市モデル、不動産IDを連携して生産性の向上を図るなど取組みを推進している。実質労働生産性が著しく低いと言われる建設・不動産業の生産性を上げるため、新しいチャレンジとしてDXは求められている。
 そうしたなか、次のビジネス変化としてアンバンドリング化が起こる。従来のビジネスは1度バラバラになり、サービス化される。そして再度リバンドリングされ、何らかのプラットフォームにプラグインしていく。アンバンドリング化では、各分野の専門家が分担しあいながら、個々のサービスを最適に組み合わせて提供する。もう1段進んでプラグイン化が始まると、巨大なプラットフォームに従来のサービスが組み込まれていく。つまり将来的には、不動産を超えたエコシステムの1つの機能として不動産サービスが提供されることになる。こうした動きを見据えて、これからの不動産事業・サービスのあり方を考える必要がある。
 不動産業界特有の面白さとしては、サービスのデジタル化だけでなく、トークンエコノミーの進展によって不動産そのものがデジタル化していくという動きがある。サービスとプロダクトの両面からDXの進展を考えることが重要だ。一方、デジタル化と企業業績を比較した資料では、建設・不動産業のみでデジタル化をしない企業の方が売上は高いという逆転の現象が起きている。今一度、DXの意義について冷静に考え直す必要がある。同時に、不動産業界ではDXだけでなく、GX(Green Transformation)やSX(Sustainability Transformation)という観点も包含して実現することが求められる。流行りの言葉に過度に反応せず、データ分析をリアルの世界に還元していくというデータ駆動型社会を目指して、業界一丸となって成長を目指していくことが重要だと言える。

都心100㎡以上の成約価格の伸びが顕著 ー本質的な暮らし求める富裕層がターゲット
 「首都圏リノベーション事業の現状と未来」と題して、リビタの久保雅一・常務分譲事業本部投資事業本部長が講演。市場環境は、中古マンションの取引量が新築マンションの供給量を6年連続で上回っている。エリア別でグロス価格の変動を見ると、都心6区、城南・城西6区、城北・城東11区に分けた時、都心6区は2021年以降、金額がどんどん上がっており、この6年で約4割超値上がりしている。さらに詳しく見ると、都心100㎡以上の成約価格が顕著に伸びている。さらに成約日数の推移は、2022年度から都心100㎡超の日数が短縮傾向にある。
 今後の事業方向性は、リビタがこれまでリノベーションで成しえてきたこと、市場環境が今後どうなっていくか、環境への配慮、これら3つが重なった部分だと考えている。注力分野は2つある。1つ目は「R100 tokyo」。R100とは「100㎡超×TOKYO」、「東京を豊かに暮らす」をテーマに、都心住宅の本質的な価値を追求する住宅ブランドとして2013年にサービスを開始した。都心部100㎡超物件の取引に勢いが見られ、フォーカスすべきクライテリアであると考えている。「R100 tokyo」の実績は、2月現在で約300戸を販売している。1棟丸ごとリノベーション分譲、区分マンションの分譲を行っている。エリアは都心5区を中心に、厳選したエリアで展開している。会員組織もあり、約6000名が会員となっている。予算1億円以上2億円未満の人が約7割、2億円以上5億円未満の人が約3割、希望面積は、100㎡以上120㎡未満が約6割、120㎡以上150㎡未満が約1割、150㎡以上が約1割となっている。契約者属性は、購入前居住地が港・渋谷・千代田が約4割を占め、年齢は50歳代の約2割と比べて、30歳代が約3割、40歳代が約4割。富裕層は年々増加傾向にあり、ここにフォーカスしたビジネスだ。会員のメイン層は、本質的な暮らしを求める「New Luxury」層。     

 New Luxury層は、自分たちの価値軸がある、ライフスタイルをきちんと持っている人、好奇心が旺盛で、自分のライフスタイルは自分たちで決める、世間の評判ではなく自分らしい生き方をして行きたい、家は人に見せるものではなく、自分たちを表現し自分たちが住みやすいものであること、こうした価値観に基づいて住宅を選んでいる。「R100 tokyo」の成約者におけるNew Luxury層の比率は、2017年度に40%弱だったものが、直近では60%を超えている。
昨年12月に「R100 tokyo」をリブランドした。New Luxury層が求めているのは「QOL(quiddity of life)」、住み手の本質的な価値観が表現される暮らしと考え、ブランドを展開している。事例として「オパス有栖川」(東京都港区)は平均専有面積約200㎡超住戸のうち、数十戸を弊社とNTT都市開発が取得し、「日本の住宅文化を牽引する先見性」をコンセプトにハイエンド向けのリノベーション住宅を企画・分譲している。
 そのほか弊社ではシェア型賃貸住宅「シェアプレイス」を展開しており、コロナを経て新たなニーズが見えてきたために、派生した新ブランドである「Well-Blend」を立ち上げた。コロナ後、住まいとオフィスが同質化し始めている。テレワーカーの割合が増加、コロナ収束後のテレワークの継続意向は80%を超え、彼らがテレワークの実施場所として自宅を選択していない理由の半数が、仕事環境が良くないからと答えている。テレワークは普及したが1R内でのテレワーク疲れ、孤独感、生活の乱れ等、多くの課題が見られている。コロナにより、衛生意識が変化し、専有部内に水回りが完備されている一般賃貸住宅への需要が急増している。時代背景を踏まえて考えた新ブランドは多機能交流型賃貸住宅としている。充実した顧問スペースやサードプレイス空間を持つ多機能性と、ゆるやかなコミュニティを自分の無理のない範囲で楽しむことができる交流のあり方を掛け合わせた住まいを展開していく。
 弊社の経営ビジョンは次の不動産の常識をつくり続けること、ミッションは豊かな未来をつくること。これからも多くの事業を世の中に送り出し、多くの人とコラボレーションして事業を進めていきたい。

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