不動産売買の電子契約・書面電子化 解禁前夜ルポ① 契約の場面で何がどう変わるのか

 2021年5月19日に交付された改正宅建業法は22年5月までに施行される。デジタル改革関連法の成立を受けた改正で、大きな柱は宅建業法34条〜37条で規定される重要事項説明書類や契約書のIT化の解禁だ。重要事項説明については「IT重説」が可能だが、重要事項説明書は「紙」という、デジタルとアナログの捻れた構造が、「説明も説明書もITでOK」と変わることになる。説明書は紙からPDFでも良くなることで、より柔軟なオンライン重説が可能となる。

◇デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律(内閣官房)

《中略》

一七 宅地建物取引業法の一部改正関係
 1 宅地建物取引業者は、宅地又は建物の売買又は交換の媒介の契約を締結したとき、依頼者への書面の交付に代えて、依頼者の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができる。(第三四条の二第一一項関係)
 2 宅地又は建物の売買、交換又は貸借の契約が成立するまでの間に宅地建物取引業者の相手方等に交付する書面への宅地建物取引士の押印を不要とし、また、相手方等の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができる。(第三五条第五項及び第七項~第九項並びに第三七条第三項~第五項関係)

《中略》

 オンライン化の一番のメリットはやりとりに掛かる無駄な時間の削減だ。具体的な活用場面を想定してみよう。例えば消費者が建売住宅の現場を昼間に見学し、その場で購入の意思を示したとする。戸建の販売業者は、購入意思を示した消費者に印鑑を取りに戻らせて、自らは事務所に戻って契約書を製本し、重要事項説明の準備のため重説書類の準備と宅地建物取引士の手配を行う。こうしてその日の夕方には契約をスタートし、2時間ほど経って契約が終了ということになる。契約の手続きが終わる頃には夜を迎えているはずだ。

購入希望者の「熱」冷めないうちに契約終了

 これが来年5月には①顧客に印鑑を取りに戻らせる行為、②契約書製本、③重説書類準備、④宅地建物取引士手配ーの4つの工程がITで全て置き換わる。例えば②は製本作業で30分以上の時間を要しているところ、電子契約によって契約書の製本時間を節約できる。③はPDFで重要事項説明書を送付して準備の手間を省く、④は事務所にいる宅地建物取引士をネットで繋ぎ、タブレットを利用した「リモート重説」を行うことで、場所の移動時間を省くー こういったことが可能となる。

 ①については、電子署名は印鑑を押したことと同じ効力があり、法的な拘束力のある行為となる。そのため成り済ましなど非改竄性が求められる。電子的な印鑑である電子署名にはタイムスタンプを活用する。タイムスタンプとは、契約日時を正確に記録する電子印鑑のこと。クラウドサインなど様々な事業者のサービスが登場しており、使用するシステムなどに応じてどのサービスにするか適宜選択する(事業者によってはタイムスタンプを付与していない電子署名もあるので注意)。

 顧客のタイムスタンプはもちろん、住宅事業者側も、代表印の捺印をもらうために現場、支店、本店をそれぞれ移動するような無駄な時間とコストが不要となる。

 タイムスタンプには送信1件あたりのコストが掛かる。クラウドサイン の場合は送信1件につき200円だ。これを紙の契約書に置き換えると、郵送費で360円ほど(レターバックの場合)、人件費にして200円ほど(時給2000円の人が分担して行ったと仮定)、その他コストに100円として、書面1件あたり700円前後は必要となる。忘れてはならないのは、紙の契約書にはこのコストに印紙税が上乗せされること。電子契約であれば印紙税は徴収対象ではないので、金銭的なコストメリットも大きい。加えて不動産は額が大きいので印紙税の額も大きくなる。このオカネの面は消費者へのアピールポイントとなる。

タイムスタンプの可能性

 タイムスタンプは様々なことで応用が可能で、顧客とのメールでのやりとりにおいても活用できる。例えば注文住宅の場合、建築事業者は施主との請負契約前に建築図面を示す。そうすると、中には図面を他の住宅会社に持ち込み、相見積もりをするユーザーも出てくる。建築図面には著作権がないため、他者への持ち込みがされても法に問うことは難しい。そこで契約前にこうした図面が持ち出しされないように、業者はメールベースでユーザーと秘密保持誓約書をやり取りし、ユーザーにタイムスタンプを押して貰えばいい。アナログの紙ならこうした行為は重く感じられるので憚られるが、メールのやり取りの延長ならば、気軽に機密保持ができる。

 また施工現場で施主からの要望で追加工事に応じた場合。口頭ベースで行っていては、施主が最終的にシラを切る可能性もある。その場合もデジタルガジェットとタイムスタンプ が生きる。追加工事の依頼の都度、タブレットを用いて施主からタイムスタンプ を受けることで、追加・変更の内容を都度確認し、引き渡しの際に追加コストを明確にした上で請求できることになる。

不動産売買の電子契約・書面電子化 解禁前夜ルポ② へ続く 

 

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