竣工時期不確定で顧客への説明が難しい
―免震への関心高まる、沖縄で契約倍増も
マンションデベロッパー各社は、震災直後の広告宣伝の自粛から再開へと動き出している。しかし、ネックとなるのは今後の竣工の時期が予定どおりに収まるのかという疑問。ゼネコンからの明確な説明がなされていないデベロッパーがほとんど。広告宣伝のみならず、今後の供給計画も立てづらい状況になっている。
モデルルームの来場者数は震災前と震災後では大きく減少した。大京は、2月と比べて3月は全国で4割の減少。このうち首都圏は半減、関西圏も3割の減少となった。新聞の折り込みチラシやポスティング、インターネットのバナー広告を控え、モデルルームの開設時間も短くし、イベントを自粛したことも要因の一つ。住友商事は、モデルルームの来場者数が震災前の半分以下となった。新規に売り出した物件の事前予約案内は予約者の8割が来場したものの、それ以外の来場者が落ち込んだ形だ。
震災直後に第1期登録を控えていたタワーマンションでは、親からの資金援助を受けている1次取得者が親の反対を受け、申込みを辞退するケースも。倍率が高かったことが幸いし、抽選の結果、次点者が購入することになったものの、地震直後のタワーマンションに対する顧客の反応が鮮明に現れた。一方で免震マンションに対する関心は高まっており、震災前より免震構造に対する質問が多く出るようになったという声もある。
アンビシャスの安倍徹夫社長は、「震災後、中高層マンションへの安心感が高まっている。古い賃貸住宅から脱したいという声が強く、地盤に対する説明を求められるようになった」と話す。また、リゾート地のマンションが3月に入ってから契約数が伸びている。大京の「アルトゥーレ美浜」(沖縄県中頭郡、竣工10年3月、421戸)が3月単月では2月の倍の契約数となり、首都圏在住者の割合がそれ以前の月より5割ほど高まった。「震災の影響かどうかは不明だが、要因として考えられる」と同社はみている。
供給計画変わらず、用地エリアは個別化
各社の供給量や売り出す物件のラインナップは、計画どおりに行う方針を持っているデベロッパーが多い。しかし、「資材が入手しにくいため工期が遅れる可能性がある」とゼネコンから聞かされており、場合によっては販売時期の見直しや期ズレが発生する懸念がある。また、液状化の発生を連想させる埋め立て地や湾岸エリアについては、「埋め立て地であっても需要が高いと判断できれば事業化する」(大京)という考えがある一方、「今後、積極的に湾岸の用地を求めようとは思わない。千葉エリアは内陸であれば検討する」(丸紅)という方針もでてきている。デベロッパー各社が地盤の安全性をより重視するようになるため、「今までは駅から近いことや街のデザイン性と利便性が評価されてきたが、危険性のある土地は評価が下がり、今後の用地取得はエリアごとの個別化が進む」(アンビシャス・安倍氏)とみられる。
また、震災前に行った用地取得の入札で、高値で札を入れた案件については、今後の資材価格の高騰を見越して契約前に事業を見直し、事業化をあきらめたケースがある。建築費の高騰を織り込んで、当初計画していた仕様を落し、商品企画を再検討する案件も出ている。しかし、土地の入札は震災後も継続して行われているようで、震災後間もない3月17日には中央区明石町のマンション用地の入札が行われ、大手デベやハウスメーカーなどが参加。参加した大手デベによると、震災後も用地取得に伴う社内会議は引き続き行われており、今後も入札には参加していく方針。「入札価格はすべて震災前の想定からの販売価格を下げ、工事費を5%上げるという設定に組み換えている」と話している。
震災後の商品企画については、計画停電や電力供給を意識した発案として、「蓄電池型太陽光発電で専有部への電力の取り込みが可能なマンションはニーズが高まるだろう」(大京)とみる一方で、「オール電化の採用は見直したい」(住友商事)という方向性もある。ある大手デベは、震災前にオール電化で企画していたファミリーマンションをガスに切り替えた。このほか、「防災グッツの備蓄品の充実や防災設備の標準仕様化は社内で議論したい」「帰宅難民の経験をした人も多いので、コンパクトマンションを中心により都心回帰が強まるのではないか」(丸紅)や、「女性単身者向けコンパクトマンションでは地盤の良さのほかに、職場から歩ける場所にあることを条件とする顧客もいる」「以前はうるさいということで人気がなかった小学校に近い立地が、子どもと災害時に連絡が取りやすい、避難場所に近いなどの理由でメリットになっている」(大手デベ)など、震災後の顧客の嗜好の変化に気づき始めているデベロッパーもいる。今後、時間が経つにつれて変わってくる顧客の嗜好を確実にとらえ、ゴールデンウィーク商戦に活かしていく必要がある。
(2011/04/08 日刊不動産経済通信)