12km遷都の可能性
いなしの発想に学び、洪水が氾濫しやすいところを避け、河川の生態系を守る方法を考えると、12km遷都の案が浮かぶ。
氾濫していたところにも家が建つようになったのは、1950年から20年のうちに東京圏に625万人が流入し、田圃や湿地を農地転用で宅地造成して戸建てに住まわせ、さらに地下水の汲み上げで地盤沈下したのが原因である。
いなしの発想であれば、こうした氾濫が予想される地域には家を建てずに、ラムサール条約に登録された葛西臨海公園のように、元々の湿地帯に戻し、その地域の建物は多摩丘陵の高台地域にまちごと移すことになる。
以前(不動産経済Focus&Research No.1324)検証したように、一戸建て主体では土地は有効利用されないが、これを改めて三層の町家群(中心部でも五層)を連ねれば、都区部の延床面積はほぼ都心から12km圏内に収まる。この12km圏の中心を皇居から阿佐ヶ谷に移してまるまる武蔵野台地に置いてみると、東端は皇居、北端は和光市、西端は小金井市、南端は大田区久が原、といった範囲に相当する。12km遷都案は空間および地形的には可能である。
経済的にはどうだろうか? 木造戸建ての耐用年数は22年、実際も30年で寿命を迎えると言われている。その後はいずれ改築する必要に迫られ、その分の工事費負担として一戸当たり2000万円前後はかかる。そこで浸水危険地域では、例えばこれから30年を居住期限と定め、建て替え費用分の積み立てと期限内の移転を求める。
一方の12km遷都圏には木造密集地域が広がり、地震火災による延焼危険性が高い。漏電等で火災が発生すると、一時間で500~600棟に延焼し、地区によっては9000棟近くまで燃え広がる。ここで、こうした延焼危険地域を防火地域に指定し、30年後を期限に耐火造への建て替えを義務付ける。延焼を広げる老朽木造家屋の多くは接道不良区画にあって再建築不可だが、接道区画を含めて5区画ほど統合すれば都区部では99.8%は共同建て替えが可能になる。共同建て替えなら、同じ敷地面積でも戸建ての1.4倍ほど居住面積がとれる。
この共同建て替えに浸水危険地域および12km遷都圏の人々が、もともと必要だった改築資金を双方で持ち寄り、耐火造の町家を建てて居住する。12km遷都圏では地価が高騰するが、その資産差益に丸々課税して移転する人に補助する方法がとれるだろう。もっと詳細に工夫する必要はあるが、大まかにみて12km遷都は経済的にも成り立ちそうだ。
この12km遷都を実現させれば、治水対策と木造密集地域対策もまとめて遂行できる。スーパー堤防やダムも不要で、河川や湿地は自然の姿を取り戻す。普段は野鳥も集い、市民の憩いの場になるだろう。東京圏は、街並みは中低層の町家群によって構成され、光や風が心地よく導かれる広場や通りには人びとが交流する。街区内は車の通行を制限して、徒歩、自転車が主体になる。ヒートアイランド現象やタワー公害なども解消されるだろう。百年の計、具体化できないものだろうか?
2021/8/11 不動産経済Focus&Research