マンション管理の未来㊿ 住宅金融支援機構 理事長 毛利 信二氏(下)マンション管理・再生の問題は地域の喫緊の課題 金融支援の必要性の周知へ積極的に活動

マンション管理の未来㊿ 住宅金融支援機構 理事長 毛利 信二氏(上)より続く

シミュレーションツールと国の管理新制度を連動


――中期目標・中期計画がスタートした。その中でマンションの維持管理・再生で特に注力すべきテーマは。
 毛利氏 マンションの適正な管理を実現するには、本来は組合自らが長期修繕計画や修繕積立金の妥当性について判断し、必要に応じて見直すことが重要になる。機構はそれを支援することが役割になる。そのため、組合の情報の非対称性の解消や金融の有用性を周知する取り組みは、とりわけ注力すべきものと考えている。
 例えばMLSは、マンションの規模や築年数、予定される工事の内容、修繕積立金の徴収額などをウェブ上で入力することで、同規模・同築年数のマンションの平均的な大規模修繕工事費用や、今後40年間の修繕積立金の負担額、修繕積立金会計の収支などを無料で試算できるもので、注力すべきものを具現化した取り組みの一つになっている。
 今年度は、協議会の場を通じ、MLSについては法改正に基づく国のマンション管理に関する新制度との整合性を図っていく。また、現在100戸未満のマンションとしている対象を拡充させる。さらに、MLSを補完するツールとして「マンション大規模修繕ガイドブック(仮称)」を年度末までに作成し、シミュレーション結果の活用方法に関する詳細な解説や、マンションの年代別の仕様の特徴に応じた修繕工事の選択肢、大規模修繕の資金的課題の解決方法などを提示できるようにする。
――大規模修繕工事などで融資が活用される上での課題や今後必要となる取り組みは。
 毛利氏 協議会の前身である「マンションの価値向上に資する金融支援のあり方勉強会」で挙げられた課題のひとつは、管理組合向け融資市場では個人向けの住宅ローンやアパートローンと比べ貸し手が不足しているという点だった。協議会でも引き続き組合向け融資への民間金融機関の参入支援を課題として検討を進めている。
 検討を通じ、組合向け融資はデフォルトが少ない実態があるにもかかわらず、組合に関する開示情報が限定的であるために組合の信用力を評価するのが困難であるなど、与信審査に関するインフラが未整備な市場である点が浮き彫りになっている。このため今年度は、機構の保有するデータを活用し組合向け融資の与信モデルの構築を図るための検討を進める。

管理状況の市場評価へインセンティブ検討
地方の取組支援へ連携の場設ける


――管理状況を市場で評価しようとする動きがある中、機構としてインセンティブの付与などで寄与できる点はあるか。
 毛利氏 適正化法の改正で制度化された管理計画認定制度では、管理計画認定を取得したマンションが市場で評価されることで区分所有者全体の適正管理への意識向上や管理水準の維持を図る政策効果が期待される。この効果が発揮させるため、組合ごとに管理状態が市場で評価される「管理の見える化」が重要になる。
 機構としても、管理の見える化を進め管理適正化支援につながるメニューとして、どういったインセンティブが付与できるか検討したい。国とも連携して取り組んでいく。

――管理適正化や団地再生に向けた国や自治体、企業などとの連携の方針は。
 毛利氏 適正化法改正により管理適正化のための取組強化が求められる地方公共団体に対しては、全国の機構の支店などが課題やニーズを把握し、機構の関連制度を紹介しつつ、マンション管理関係の専門家とも連携し、管理組合のマンション管理適正化につながる取り組みを行なっていく。
 今後は各関係者がそれぞれの役割を明確にし、地域のマンションストックの状況や地方公共団体の意向に応じて実施可能な支援策を地方レベルで総合的に検討できるような連携の場を設けることが重要と考えている。機構としても支店のネットワークも活用しながら積極的に取り組んでいきたい。
 また、様々な関係者が参加し連携してきた協議会や勉強会での検討を通じ、マンションの管理・再生に関する問題が喫緊の地域の課題となっている点が共有されてきた。金融支援の役割についても議論されてきており、必ずしも専門的知識を持たない管理組合に対してMLSなどのツールを用意するなど、引き続き行政やマンション管理士などとも連携しながら様々な情報提供などの支援を行っていきたい。

(プロフィール)
毛利 信二(もうり・しんじ)氏
1957年6月生まれ。1981年3月東京大学法学部卒、同年4月建設省(現国土交通省)入省。2007年総合政策局不動産業課長、2012年官房審議官(住宅局担当)、2014年土地・建設産業局長、2015年総合政策局長、2016年国土交通審議官、2017年事務次官などを歴任。2018年の退官後、三井住友信託銀行顧問、全日本不動産協会特別顧問、全日みらい研究所所長、土地総合研究所理事長などを経て、2021年4月から住宅金融支援機構理事長(現任)。

2021/7/5 月刊マンションタイムズ

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