7月3日に熱海で発生した土砂災害の惨状は、発生以来連日報道されていたが、東京の洪水被害予想も深刻である。
2019年10月、台風19号により、荒川は氾濫危険水位の7.7mに迫る7.17mにまで水位が上昇した。荒川・江戸川が氾濫すると、江東5区(墨田・江東・足立・葛飾・江戸川)は大半が3m以上、そして2週間以上浸水すると公表されている。域内の住民は約258万人、道路や橋の交通容量を超え、堤防決壊を前に一斉に避難するのは難しい。避難所の収容規模も40万人程度に過ぎない。
どのように対処すべきなのだろうか?
スーパー堤防の愚
従来、対策の柱とされたのがスーパー堤防、高さの30倍の幅で盛土してそこに住宅等を再建築する計画である。その規模は、東京圏の主要な河川を対象に全長872km、建設に12兆円、400年以上かかるという代物だった。
実施から24年、2010年4月までに7000億円投資されたが、工事の進捗率は5.8%に過ぎず、民主党政権下の事業仕分けで一旦廃止された。その後、整備区域を流域約120kmに縮小して継続されている。
全域で完成するまで効果はなく、土木利権以外に意味はない。
ダムの無駄
上流のダム群で洪水調節する案も破綻している。1980年の計画では、利根川上流で5500㎥/秒の流量をため込むために、総容量で5億4000万㎥のダム群が必要とされた。しかし八ッ場ダムを加えても、まだ1億8000万㎥に過ぎない。仮に完成したとしてもダムには土砂が堆積して100年も持たずに満杯になる。会計検査院の報告(2014)では、堆砂で機能低下のダムが100カ所以上あると指摘された。
もともとダムは上流域に限られ、河川の全流域に豪雨があるときには役に立たない。河川一帯の生態系も破壊される。そのうえ巨額だ。鬼怒川上流4ダムのうち湯西川ダムは総額1840億円(うち治水負担分は1144億円)、これに対し下流部の河川改修工事の総予算は328億円である。
これも土木利権以外に意味はない。
いなしの発想
近代の治水は、一滴も水を漏らさない、という力づくの発想だが、以上のように土木利権だけが潤ってうまくいかない。これに対して、江戸の頃は、“いなす”発想だった。
渡良瀬・中条堤に遊水地等を設けて洪水を分散し、本堤が切れても控提で抑える、重要な地区に絞って堤防や輪中堤で守る、という多段階の方法だった。災害を意識して氾濫しそうなところには家を建てない、その上で土盛りをして母屋よりも高い場所に倉を建てて非常時の食料や船等を備蓄する、というフェイルセーフ策も講じられていた。ダム任せ、堤防任せではない。
ところが1910年、増反のために中条堤上流の遊水地機能が廃止された。利根川も力づくの発想を受けて連続堤方式になり、本川に洪水負担が集中し、治水の決め手がないのが現状だ。
12km遷都(下)へ続く