コロナ禍で業種によっては景況が大幅に悪化するなか、ホームレスや生活保護受給者らの自立支援に取り組む不動産仲介のプライム(神奈川県座間市、石塚惠代表)が存在感を放っている。行政や他団体らと連携し、雨風をしのぐ場所も確保できない生活困窮者の支援に尽くす。実利を追う傾向が根強い不動産業界にあって、困窮者の支援とビジネスを両立させる異色の存在だ。NPO法人を自前で作り、フードバンク事業も始めるなど支援の輪を少しずつ広げている。石塚惠代表に事業への思いや運営状況を聞いた。2回に分けて掲載する。
―コロナ禍の不況で生活保護の申請件数が増加基調だ。支援の現場にいてどう感じる。
石塚氏 従来は高齢者や障がい者の顧客が多かったが、コロナの感染が広がってからは若い層の相談が増えた。働き盛りの20歳代から40歳代が職を失いホームレスになっていて、車で寝起きする車上生活者もいる。車上生活では住民票がなく職を得られないため、まずは家を探そうと当社を訪ねてくる。ただ多くの若い世代には切迫感がないようにも思う。自立への一歩として生活保護の受給申請を勧めても、車を手放したくない、行政に干渉されたくないなどと嫌がる。高齢者ほど追い詰められておらず、考えに甘さが残る。
―コロナ後に相談を受ける件数はどう推移したか。
石塚氏 昨年6月に1カ月当たりの相談件数が200件と従来の3倍ほどに膨らんだ。そこから1年余りでさらに増えてきている。東京五輪の会期中に首都圏のホテルから空室が減ってしまったせいもあり、従来は付き合いがなかった困窮者支援団体を経由して問い合わせがくるようにもなった。
―職員は4人だがマンパワーは足りているか。
石塚氏 月に15件も内見予約が入ると手が回らなくなる。今年の5、6月は特に多忙で入居者に目が行き届かなくなり、夜逃げした若者も何人かいた。十分に支援をしてあげられなかったと悔やむこともある。
―コロナ禍で対面の交流が困難だ。業務に支障は。
石塚氏 確かにやりにくいが、電話や(SNSの)LINEなどを活用すれば回る。家賃の集金で入居者を訪問することも多く、自分の目が届く範囲内で支援している。取りこぼしをなくすには行政や支援団体などと日頃から協力関係を作っておくことが重要だ。
―来年で創業10年。困窮者支援と不動産業をどう両立させているのか。
石塚氏 当社の収益の8割は困窮者向けの不動産仲介で、残り2割は保有している物件の家賃収入などだ。すべての保有物件に困窮者が入居している。事業比率は不動産の賃貸仲介と売買仲介がおおむね半々で、仲介の主な収入は手数料や家主から受け取る業務報酬、管理料、退去時のリフォーム、遺品整理の報酬などで、おおよそ賃貸が5、売買が4、雑収入が1という割合になっている。
―困窮者を相手にしているが利益は出ているか。
石塚氏 利益率は30%弱と高く、事業は十分に回っている。当社の物件に入ってもらう入居者は生活保護の受給が前提だが、貧困ビジネスとは異なる。大家さんと当社がきちんと利益を得て、入居者が住まいを確保できるという三方良しの事業スキームになっている。最近では当社の認知度も高まり、好意的に接してくれる大家さんが増えてきた。このため収益物件を売買する機会も多くなった。