マイホーム売買のイノベーション 仲介システムから人材育成、建設工法まで① 
不動産経済ファンドレビュー


変革が遅れているといわれてきた不動産業界だが、既存住宅の流通市場では仲介システムの変革、それを担う真のプロフェッショナル育成など新たな動きが始まっている。DXやオンライン化による変革とは違う次元で、根強かった業界慣習から脱却する試みである。一方、新築市場では住宅史上最大のイノベーションを巻き起こす可能性を秘めた「3Dプリンター住宅」の登場が注目される。


「手数料」からは見えてこない業界の未来 
議論され始めた「仲介の見える化」


 宅地建物取引業法で言う「媒介報酬」は、不動産業界では「仲介手数料」と言う。「仲介」と「媒介」とは似た意味合いもあるが、「手数料」と「報酬」との間には大きな開きがある。手数料は一定の手続きに対する定まった対価のことである。それに対して、報酬は提供された役務とその成果に対し、謝礼の意味で払われる金銭のことである。
 つまり、依頼者(クライアント)のために提供される仲介という役務の対価を「手数料」と表現することは適当ではない。弁護士報酬を弁護士手数料とは言わないし、ローン借り換え手数料を借り換え報酬とは言わない。そもそも、“仲介の労”は定まった一定の手続きではない。にもかかわらず、「仲介手数料」という表現に業界に違和感がないとすれば、それは仲介というサービスの品質向上のために議論され始めた「仲介の見える化」という改革機運を妨害しかねない。
議論されはじめた「仲介の見える化」とは、不動産仲介業者が消費者に信頼されるためには、仲介とは具体的にどのようなサービスを提供しているのか、その提供されたサービスの品質を評価する定量的な指標を構築し、サービスの成果を公表していくことが重要であるという主張である。

エージェントとの「マッチングサイト」始動
物件先行ではなく、信頼できるパートナー探し


 提供される仲介というサービスの品質が大切という認識が広まるにつれ、ユーザーはネットで物件を探す前に、自分にふさわしい住まいを探してくれる営業担当者(エージェント)を見つけたいという希望を抱くようになる。
 「まだ、ポータルサイトで家探ししていますか」――。これはTERASS(テラス)が運営するマッチングプラットホーム「エージェントリー」のキャッチコピーだ。このサイトには現在約300人のエージェントが登録している。ユーザーが仲介を依頼するに際しての様々な要望を書き込むと、それを見たエージェントが自分の能力や強みを生かせると思うユーザーにアプローチして購入や売却に関する提案を行うというもの。
 三菱地所リアルエステートサービスもマッチングサイト「TAQSIE(タクシエ)」を5月にも開設する。慎重を期す意味で、当面は売却検討者向けのサイトとして運営を始める。売主は物件が決まっているので、そのエリアや同じタイプの物件にも強いなど、エージェントとのマッチング条件が比較的容易と思われるからである。現在、大手不動産流通会社約10社が参加を表明している。仲介実績や年齢、趣味など約30項目を登録し、最初のコンタクトはユーザー側からということをルールにしている。
 インターネットが普及して以来、不動産会社を訪ねる前にネットで物件を探すスタイルが定着したが、近年はポータルサイトのパターン化した「絞り込み条件」に飽き足らなさを感じるユーザーも増えているという。“物件先行”ではなく、まずは希望を最大限叶えてくれそうなエージェントと出会いたいというニーズは、流通市場に真のプロフェッショナルを育てる動きにつながっていく。

マイホーム売買のイノベーション 仲介システムから人材育成、建設工法まで② へ続く

2022/5/25 不動産経済ファンドレビュー

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