都市におけるデジタルツインは、現実空間を3Dモデルでサイバー空間に再現し、都市機能などを分析・シミュレーション、結果をフィードバックする仕組みだ。精度の高い3次元都市データ、建物や道路など属性識別機能など3D都市モデルをめぐる技術の進展とデータの蓄積が進んでいる。全国の都市をサイバー空間に描き出すデジタルツインが具体的活用レベルで実現すれば、都市の空間設計や将来予測は格段に可視化され、都市への投資は多角性を高めるとともに都市計画は深みを増していく。今、3D都市モデルの進化に注目が高まっている。
国交省がデータプラットフォームを構築
複層化する都市を可視化、エリアの可能性探る
国土交通省は8月6日、全国56都市の3D都市モデルをオープンデータ化したことを公表した。街づくりDXの一環として進めてきたProject PLATEAU(以下、プラトー)によるもので、最大の特徴は、セマンティック(意味論)・モデルで作成されていること。建物の壁や屋根などモデル上の属性が識別できる。マップの3D表示は今や珍しくはない。だが、一般に流通しているものの多くはジオメトリモデルと呼ばれ、あくまで景観を再現しているにすぎず、建物などの要素が一続きで表現されており、切り分けには手間がかかるうえ、一度作成したモデルに情報を重ねていくことは容易ではなかった。
プラトーは、地理空間情報分野における国際標準化団体OGCが標準として定めるCityGMLをデータフォーマットに採用することで、個々の建物やそのパーツに属性を付加することを可能とし、さらに拡張機能を用いた都市計画・都市活動の可視化機能の強化に取り組んでいる。このうち3Dモデルに関するデータは、各自治体が保有する2Dの図面を作成するために行う測量を基にしており、同測量のために撮影された航空写真から高さ情報も算出し付加することで3D都市モデルとなる。この方法により測量面の正確さが担保にされた地図情報が得られ、それをオープンデータ化し、自治体のみならず広く民間企業に対しても情報の付加や活用を呼び掛けていく。国土交通省都市局都市政策課の大島英司企画専門官は、「全ての情報をプラトーに統合しオープン化することが目的ではなく、公で広く共有するデータと、民間でしか扱えないデータを組み入れて個々で活用していく事例の両輪で進化させたい」と今後のデータ拡充やユースケースの積み上げに意欲を見せた。
ユースケースの1つとして実証実験に参加したのは、東急不動産。同社は、2020年9月に開業した「東京ポートシティ竹芝」をスマートビルと位置付け取組みを開始し、ビルからエリアへスマートシティ構想を広げている。様々な取組みの1つに、ビル全体に約1400個のセンサーカメラを配置し、混雑状況などをリアルタイムに把握する仕組みがある。今年度はこれを拡大し、竹芝エリアの主要な交差点に人流センサー付き防犯カメラ設置を予定する。3Dモデルで人流を把握することは、都市設計が高度化している地域で特に価値がある。「都市部では街全体が複層化している。ビルから鉄道への接続1つでも、複数階にまたがることは多い。今後、大規模ビルが中心となってデータをプラトーに載せていけば、街の3次元化は進む。人流を可視化することで新たな事業プランが見えてくる可能性もある」(田中敦典東急不動産スマートシティ推進室室長)。従前の2Dでは表現しきれない人流を3Dで可視化することで進展する、エリアマネジメントの可能性が窺える。
一方で、プラトーはデータ更新をどのように管理するのか、また都市データには濃淡があるという課題もある。都市全体のデジタルツインには、規模を問わず建築物に関するデジタルデータが必要だが、築古の物件ではこれが存在しないケースが多く、新たにデータを作成するとなれば負担は重い。都市全体のデジタルツイン化には、仕組みの工夫やさらなる技術革新が必要である。
都市の未来を可視化する―3次元データの拡充でデジタルツイン実現へ(下)へ続く
2021/10/15 不動産経済ファンドレビュー