ポストコロナ時代を迎えて賃貸需要の変化をどうみるか、東京の「人口減」を賃貸住宅マーケット目線でどう見ているのか。住宅系Jリートとして国内最大の資産規模を誇るアドバンス・レジデンス投資法人(ADR)の運用会社、ADインベストメント・マネジメント株式会社の高野剛社長に、ADRの稼働状況などの動向と、東京の賃貸住宅市場について聞いた。
−2020年の賃貸住宅市場を振り返って
高野氏 20年4月の第1回目の緊急事態宣言の後、人の動きがピタリと止まった。それ以降も緊急事態宣言が出されたが、1回目の宣言後がボトムであり、その後は現在に掛けて賃貸市場に人は戻ってきている。20年2月〜7月期は、コロナ禍だったが、業績上はコロナの影響は全く出ていなかった。影響が出はじめたのは前期(20年8月〜21年1月期)から。コロナの前は契約件数の9割が賃料上昇の契約だったが、これが4割程度に低下した。
―影響をどう見るか
高野氏 アドバンス・レジデンス投資法人(ADR)のアセットを、「シングル」「コンパクト」「ファミリー」で3タイプに分けると、コンパクトとファミリーの様な、ある程度の広さがあり、複数人が入居できるアセットタイプは、ほぼ影響がなかった。しかしシングルはとても影響を受けた。ADRでは、シングルタイプにおいて、19年2月~7月期は、テナント入替時の新規契約のうち9割が賃料上昇し、賃料上昇幅は前賃対比平均7.4%であった。これに対し、翌年同時期の20年2月~7月期は、賃料上昇は4割程度に低下し、賃料上昇幅も4.1%に留まった。このシングルの影響が賃貸住宅全体の足を引っ張った。
―対応をどうしたか
高野氏 前期(20年8月〜21年1月)の半年間のオペレーションの中で、前半3ヶ月は稼働率が低下したので、後半3ヶ月間は賃料を引き下げて、稼働率を上げた。基本は稼働率低下の度合いが大きいシングルタイプの賃料を調整し、コンパクトとファミリーについても若干調整はしているが、それほど需要が減退したわけでなかった。シングルほどの需要減はなかった。ADRにおけるシングルタイプは面積ベースで37%。コンパクトとファミリーが63%となるが、シングルの賃料に対するボラティリティはそれなりにある。
―シングルへの影響が出たのはどうしてか
高野氏 シングルタイプと一言でいっても、まず広さが違う。当社の区分だと専有面積が「23㎡以下」「33㎡以下」「33㎡以上」と3つのランクに分けている。ボリュームゾーンは「23㎡以下」「33㎡以下」の2つ。この2つが共に苦戦して 特に「23㎡以下」のいわゆる狭小部屋はかなり厳しかった。「33㎡以上」はポートフォリオとしてほぼ保有していない。
―そのことについてどの様に考えているか
高野氏 この2年近く賃料が上昇していたから、そこが少し元に戻っているのではないかと思う。2年前の水準を割り込む状況には至っていないが、これまで上がってきた分が剥がれている。そこまで賃料を戻さないと、需要が戻らない。申し込みそのものはあるのだが、賃料の目線を下げないと、狭小部屋は付きにくい状況だ。「33㎡以下」も「23㎡以下」ほどではないが、下げないといけない点では同じで、状況は厳しかった。
―運用資産は都心が多いが、影響を受けたシングルは都心部所在か
高野氏 ほぼ東京のシェアが高いと言う理解でいい。つまり、都心に住むシングルが出て行った。その埋め戻しに苦労したのが前期(20年8月〜21年1月)だ。出て行った人は23区の中心部から、23区でも周辺部や郊外に移った。解約事由を見ると、部屋が狭いのでという理由で、同じシングルにしても、もう少し広い部屋への転居。そしてそもそも賃料が高いのでもう少し安いところへと行くという、その2点が圧倒的だ。より安く・より広めとなると、都心部より外寄りのエリア、ということになる。
-近郊から郊外へという動きは
高野氏 23区でも周辺部といえる大田区や江東区などで言えば、神奈川とか千葉へ移動した人もいるだろう。ADRとしては一都三県で言えば、23区外の東京、千葉・神奈川・埼玉という近郊の稼働率はコロナ禍でも、下がるどころかむしろ稼働率が上がった。前期は、需給だけ見れば、23区で言えばより23区の外寄りの稼働率が圧倒的に高かった。