コロナ禍における地方移住は進むのかー<br>関東学院大学法学部准教授・社会情報大学院大学特任教授 牧瀬稔


 新型コロナウイルス感染症の一つの影響に、働き方の変化がある。都会への通勤という前提が崩れはじめ、テレワーク、リモートワークの可能性が高まっている。3密回避を志向するならば、都会よりも地方であるし、そのほか多くの理由も含め「コロナ禍において地方移住が進む」と言われている。本稿は地方移住の可能性について筆者の見解を述べたい。

地方志向の高まり

 内閣府は「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」を実施した(6月21日発表)。同調査によると、新型コロナウイルス感染症の影響で「地方移住への関心が高まった」は15.0%となっている(「関心が高くなった」(3.8%)+「やや高くなった」(11.2%)の合計)。特に東京圏の20代では27.7%に達している。この27.7%を推計すると、約112万人となる。さらに、東京23区に住む20代のうち、地方移住に関心を持つ人は35.4%という結果も示されている。この数字は3人に1人以上の割合が地方移住を考えていることになる。

 8月25日に発表された「2020年度移住動向調査」(ディップ株式会社)によると、非正規労働者の6割が地方移住に興味を持っていることが分かった。同調査は「地方移住に興味のある方は昨年の48%から11ポイント上昇し59%という結果になりました。働き方改革や新しい生活様式の浸透により、地方移住への意識が高まっている」と記している。近年、そのほか地方移住に関連するさまざまな調査があるが、全体的に地方志向が強まっている結果が得られている。

 地方移住の高まりを受けて、国は多様なメニューを用意しつつある。例えば、国が進める地方創生(第2期)は、東京の企業に勤めながら働く場所を地方に移すリモートワークを後押しし、地方への移住につなげることが一つの柱となっている。

 同時に地方自治体も移住者を捉まえようと、多様な施策を展開している。A市は、UIターンでの移住者に補助金を支給する支援事業を開始した。B市は、市への関心を高め移住の検討につなげてもらおうと、地方移住を勧めるPR動画を用意した。C市は、旅行先で休暇を楽しみながら仕事にも取り組む「ワーケーション」推進に向け、1泊当たり5000円を上限に、宿泊費の半額を補助する。そのほか地方移住に関する施策は枚挙に暇がない。

 このような状況を目の当たりにすると、地方移住は進むように感じる。

地方移住の注意点

 地方移住を進めるには3つの注意点がある。第1に、注意すべきことは「地方」の定義である。内閣府調査の設問を確認すると「今回の感染症の影響下において、地方移住への関心に変化はありましたか」と尋ねている。アンケート調査の回答者が「地方」と尋ねられた時、具体的にどの地域を思い浮かべるのだろうか。 

 筆者の見解は、「地方」というカテゴリーで有名な沖縄や軽井沢(長野)などを考えるだろう(「ブランド」地方)、「地方」と言っても現在の住まいから近い「地方」の可能性(「日常生活圏近隣」地方)、自らの故郷である「地方」を思いつく(「思い出」地方」)、である。

 すなわち「地方」と言っても「イメージのわく地域」である。いま地方圏に位置する多くの地方自治体がこぞって地方移住に取り組んでいる。しかし、多くの地方は認知度がほぼなく選ばれる可能性は低いだろう。

 第2の注意点は、地方移住は激戦区ということである。多くの自治体が地方移住の施策を進めつつある。その結果、競争が激しくなっている。ライバルの中で埋没しない地方移住が求められる。今度は「地方移住」をキーワードに自治体間の仁義なき戦いが勃発しようとしている。 

 第3に「地方移住の障害をどのように克服するのか」がある。2014年に内閣府が「農山漁村に関する世論調査」を実施しており、同調査では、以下のような地方移住の障害が挙げられている。それは、買い物・娯楽施設がない(44.3%)、地域内交通が貧弱(44.0%)、医療機関が少ない(37.0%)、子どもの教育施設が弱い(25.9%)、などだ。これらを改善しないことには、地方移住は一過性のブームとして終了する。

 実際、過去何度か地方移住のブームは見られた。しかし、地方が持つ都会と比較した上での弱点を改善できなかったため、地方移住はトーンダウンしている。

冷静に捉えた地方移住

 現在の「地方移住」は、ややもすると利便性の高い都会に近い地方だけが移住者を増やす可能性がある。今回言及した注意点を克服しないと、多くの地方は移住者を集めることができず徒労感のみ残るという状況になりかねない。

 現在、筆者のもとに地方移住の可能性について相談が多くある。何となく周りが取り組んでいるから・・・という理由で地方移住に取り組むと、間違いなく失敗する。地方移住が注目を集めているからこそ、冷静に捉える必要があるだろう。

(不動産経済FAX-LINE 2020年9月9日号)

牧瀬 稔(まきせ みのる)

関東学院大学法学部地域創生学科准教授

(兼務)社会情報大学院大学特任教授

(兼務)東京大学高齢社会研究機構客員研究員

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