マンションの防災訓練というと多くの人は、非常ベル等を合図に居住者が階段を下り1階に集合、消火器やAED(自動体外式除細動器)の使い方等を学び、煙が充満したテントの中を通り抜け、起震車で震度7の揺れを体験するといったことを連想するだろう。最初は興味深く熱心に取り組んでも、毎年同じようなことを繰り返しているとマンネリ化し参加者も減ることになる。消防署と相談をしてポンプ車やはしご車を派遣してもらい、放水の威力や高層階から居住者を救出することなどメニューを多様化するが、それも限界がある。火災だけでなく、大地震発生時に役立つ防災訓練とはなにか、思い悩むマンションの管理組合等も少なくないだろう。6月号の本欄で取り上げたブラウシア(千葉市、438戸)が、6月28日に実施した新しいタイプの防災訓練を紹介する。
今回のブラウシアの防災訓練は次の体制と手順で実施された。
①通常の訓練では地震発生等の合図等は、非常ベルや館内放送で伝えられるが、今回の訓練では館内放送のほか、ZOOMで各居住者のスマホやパソコンに伝えられた。各戸の居住者は自分や家族の身の安全を確保する行動をとった後、無事であることを外部に知らせるためのプレートやタオルをドアノブに下げた。
②各階のフロア班のメンバーは自分と家族の身の安全を確保したあと、各階の共用部分に備えてあるファースト・ミッション・ボックス(FMB)を開封し、中に納められた手順書に従い各住戸の安否と建物・設備の損傷状況等を確認、その結果を1階に開設された災害対策本部に、これも各階ごとに用意してあるトランシーバーで伝えた。
③理事会メンバー等は自身及び家族の安全を確保した上で1階のコモンスタジオ(集会室)等に参集、災害対策本部用のFMBを開封し、指示書に従い対策本部を開設した。
④災害対策本部は4グループに分かれて行動した。
・情報グループ:主に通信手段の確保及び居住者の安否確認情報の集約
・設備グループ:主に設備の損傷の把握及び保全(一次対応)
・コミュニティグループ:負傷者受け入れ、応急措置、搬送等
・本部長室:全体状況の把握、指示等(理事長、自治会長、防災委員長等13人が3人
ずつ交代で務める)
各フロアの状況報告や本部や各グループからの指示等は原則として30台のトランシーバーを介して行われた。余震の危険もあるなかで階段を利用しなくても情報伝達等を的確に行うためである。
ZOOMにより各居住者のスマホやパソコンに伝えられる訓練の進行状況は、1階エントランスに設置された大型のモニターでも放映され、外出をする人や外からマンションに戻った人も見ることができる。
災害対策本部の被災状況等の一次情報を把握し対処する情報グループ、設備グループは広いコモンスタジオ(集会室)に、コミュニティグループはキッズルームと、それぞれ広い空間に設置されるが、訓練の中枢である本部長室は別のシアタールームに設置された。人の出入りが多く情報も錯綜する現場から、少し離れた場所に本部室を置くことで、冷静に対応策を考えることができるからである。
新時代の管理運営を探る49 情報社会に対応するソフトのインフラを検証「ブラウシア」の防災訓練(下)へ続く
2021/8/5 月刊マンションタイムズ