不動産業がぶどう?―三井不動産グループの強みが生んだユニークな農業ベンチャー(上) ― 作家・五感生活研究所 代表 山下柚実
作家・五感生活研究所代表 山下柚実

大手不動産業がぶどう栽培?

 その事業について最初に聞いた時、頭の中にいくつものハテナが浮かんだ。未開拓の分野に目を付けた新規事業だろうか? それにしてもなぜ第一次産業? なぜ農業、なぜぶどう? 疑問を抱えつつ取材を進めてみると目からうろこが落ちた。「実は不動産業ゆえの必然性、適性もあるんです」と「GREENCOLLAR(グリーンカラー)」代表取締役・鏑木裕介氏は言う。その適性とは-。

地球の表と裏でぶどう栽培に挑戦

山梨県北杜市のぶどう畑

 「GREENCOLLAR」は 2019 年末、三井不動産グループの新規事業提案制度から生まれた社内ベンチャー。「すでに山梨県に5ha、ニュージーランド10haの畑で棚式のぶどう栽培をスタートさせています」と語るのは企画立案から奔走してきた鏑木氏。
 「冷蔵貯蔵やハウスではなく、あくまで露地での栽培にこだわっています。太陽と大地の力を吸収させてぶどうのポテンシャルを最大限引き出したいから」。生産指導責任者にはぶどう栽培の第一人者、葡萄専心株式会社・樋口哲也氏を迎え入れた。いずれは耕作面積を10倍まで拡大すべく邁進中だ。
では、冒頭に記した「不動産業ゆえの適性」とは何を意味しているのだろう?


 日本でぶどうといえば、晩夏から秋に味わうことのできる至福の果実。「旬」の時期は限られている。しかし、もし地球の裏でも同じ品質のぶどうを栽培できたら? 二期作ならぬ「二拠点栽培」に着眼した「GREENCOLLAR」は北半球の山梨県北杜市と南半球ニュージーランドのホークス・ベイ地区、地球の表と裏でぶどう栽培に挑戦している。秋だけでなく初春にはニュージーランドで収穫した「旬」のぶどうが届く。地球を股にかけたぶどうブランドの名は「極旬(ごくしゅん)」だ。

「GREENCOLLAR」の代表取締役メンバー。 左から鏑木氏、大場修氏、小泉慎氏

「不動産デベロッパーの仕事には、例えば再開発事業があります。種地を探してきて地権者さんと話を重ね、建物を解体し整地し、設計・施工と長い時間がかかる事業です。しかも完成までの間ほぼ収益がありません。ただし完成すれば何十年と安定的に収益が出る事業モデルです」。その特徴は最初に投資が必要で、回収は後になること。実はぶどう栽培とも似ている、と鏑木氏は続ける。「ぶどうは苗を植えてから3年でやっと実がなり、約7年で成園になりその後は安定して収穫が可能となる。長いスパンで考えなくてはなりません。まさしくそこがデベロッパー事業と通じる点で、参入障壁が高い理由でもあります」。
 たしかに、短期的収益を求める企業にとってはなかなか馴染みにくいビジネスモデル。不動産業との相性の良さとは「長期スパンの時間軸」にありそうだ。

不動産業がぶどう?―三井不動産グループの強みが生んだユニークな農業ベンチャー(下) へ続く

2021/7/21 不動産経済Focus&Research

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