サムティ社長 小川 靖展氏
―コロナ禍だが賃貸マンション事業は堅調だ。
小川氏 過去に全国で約120棟を開発し、自社でリーシングも手掛けているが、コロナ禍による大きな変化は感じられない。強いて言えば都心でマンション用地がやや値上がりし、高額賃貸住宅の空室が少し増えた。当社は単身の学生や社会人向けの物件を主に扱っているせいか稼働率は安定している。都心から地方に移り住むといった事例も知る限り稀だ。
―一部の業種で景況が悪化している。
小川氏 東京都心付近では賃料上昇が鈍い。(1Rなどの)単身者用は家賃が11万円を超えると入居が決まりにくくなるが、20万円前後の1LDKは堅調だ。ただそうした傾向はコロナ以前からあった。
―ホテルの開発・運営を手掛けている。
小川氏 人の移動が制限されており苦しい1年だった。ただ昨秋の「GoToトラベルキャンペーン」で、特に京都の施設は稼働率と宿泊単価が回復した。地域差はあるが3月上旬の時点で自社物件の平均稼働率は40~50%程度になった。大阪のホテルも50%台だ。
―ホテル市場の先行きをどう展望する。
小川氏 緊急事態宣言が解かれれば徐々に稼働率が上がってくる。国内旅行の需要は大きく、訪日客もやがて戻る。コロナ禍で人々の行動や消費への欲求が強まっている。今は閉館中のホテルが多く新規の着工も少ない。それは競合他社が減ることを意味する。特に大阪では民泊が大打撃を受け廃業が急増している。生き残った会社が立地や設備、サービスの質を競い合うようになる。ホテル市場は第2ステージを迎える。
―ホテルリートの立ち上げを準備している。
小川氏 市況次第だが年内には組成したい。ただ、今は物件を買いにくい状況だ。駅徒歩15分で部屋数50~100室といった施設は値下がりしたが、好立地の物件はコロナ前とほぼ同じ価格だ。2月頃からホテルリートが復調してきた。コロナ後に住宅や物流よりもホテルの戻りが大きいという見方が強まっている。
―オフィスは先行きが不透明だ。
小川氏 丸の内や品川、六本木など都心の施設に大きな変化はなさそうだが、都心周縁部には影響がある。雇用確保の観点で好立地の出店を望む企業が多く、在宅勤務を続けるにも限界がある。一方で、地方は供給数が少ないせいもあり需要が強い。オフィスは東京よりも福岡や大阪、札幌などの都市に商機がある。
―中期経営計画を「物件保有」型に改定した。
小川氏 物件を開発・売買する繰り返しでは業績のブレが大きい。日本の住宅市場は安定基調だが人口動態を勘案すると大きな成長は見込めない。営業利益の半分を賃料収入で稼ぎ出す体制にし、収益力と資金調達力を高めて会社の成長につなげたい。
―国内不動産市場の先行きをどうみる。
小川氏 最大のリスクは金利動向だ。もし急上昇すれば強い逆風であり戦略転換が必要になる。ただ今の感じだと向こう5年に1~2%も動かないだろう。
―ベトナム・ハノイ市の住宅市場に進出した。
小川氏 現地大手と組んで総戸数3600戸のタワーマンション4棟を作る。4月に販売を始める。商業や学校、地下鉄などの一体開発で大きな実績になる。海外では日本でもやれる事業はやらない方針だ。シンガポールに拠点も出した。住宅にこだわらず、チャンスがあればアセアン以外でも事業を展開したい。(日刊不動産経済通信)