不動産業がぶどう?―三井不動産グループの強みが生んだユニークな農業ベンチャー(上)より続く
後継者の育成に、
地球を股にかけた二拠点生産が最適
もう一つの適性とは「土地の価値を最大化する」ことが不動産業の原点ということ。
「都心であればオフィス、近郊であれば住居、海辺ならリゾートと各土地の特性に沿ってその価値を最大化させるのがわれわれの仕事だとすれば、『農地』の価値を最大化させるにはどうしたらよいか。世界で勝負できる高付加価値の農産物を生み出し後継者不足の問題を解決する、という発想がそこから出てきました」
そう、「後継者不足」という社会課題がこのプロジェクトの背中を押す情熱的なエネルギーになっている。農家の減少や高齢化に対処する方法として、地球の表と裏を行き来する二拠点栽培が大きな力を発揮するという。
「生産作業が二度あることで農閑期がなくなり、継続的雇用が生まれ収入は安定します。何よりも技術を通年で習得できるので、後継者の育成に効果を発揮するのです」
これまで生真面目な職人気質や個人の経験・勘に依存してきた日本の農業。同社ではそうした経験的直感的な判断といった暗黙知も含めIT・ICTを駆使してデータ化し、栽培ノウハウを次世代へ継承するシステムを構築中だ。生産指導責任者として参画する葡萄専心・樋口氏の熟練経験や手仕事の要素も最大限活用し、デジタルとクラフトを組み合わせて「世界最高峰のぶどう」を生み出し、次に続く者へと伝える壮大なストーリー。
気象データと生育状況、収穫物の関係等もデジタル化することで天候リスクや相場変動といった農業ゆえの不確実性を小さくしていくことも可能だという。
農業を憧れの職業にしていきたい
巨峰、シャインマスカットなど高品質の生食用ぶどうを開発したのは実は日本人。良い品種をつくり上げるため絶えず品種改良を重ねてきた歴史が、この国にはある。だが、そうしてできた高品質生食ぶどうの大半は国内で消費され輸出量はまだまだ少ない。同社では富裕層が多い中国や東南アジアを含めて世界中で勝負できる、と見込む。
ちなみに今年、ニュージーランドの畑で収穫したバイオレットキング(価格1房5740円)と巨峰(同1房3140円)の2種類を3月にテスト販売(ECサイト)したところ、「ありがたいことに完売しました。飲食店とメニューの共同開発も始まり、食品見本市に出品すると世界中からバイヤーの問い合わせが入ります」と鏑木氏は「極旬」の手応えを語る。
日本ブランドのぶどうを世界一の商品としてヒットさせたい。農業を憧れの職業にして次に続く人を増やしたい。豊かな緑色のぶどう棚の下で土に触れる楽しさを伝えたい。ライフスタイルを提案する意味あいを込め、ブルーカラーでもホワイトカラーでもない「グリーンカラー」を社名にした。
大粒のぶどうの背後に、日本の農業の未来像が浮かび上がる。人々の知恵や情熱のストーリーや、新しい生き方がある。すべて含めて「極旬」ブランドだ。
2021/7/21 不動産経済Focus&Research