新時代の管理運営を探る㊽ 首都直下地震等に備え公民の連携で実施可能なエレベーター閉じ込め対策を(下)

新時代の管理運営を探る㊽ 首都直下地震等に備え公民の連携で実施可能なエレベーター閉じ込め対策を(上)より続く

扉を開けて物資供給や激励をするだけでも大きな効果


 マンションについては大手エレベーターや系列保守会社、マンション管理会社等は閉じ込め救出についての取り組みを現在のところ行っていない。大手5社系列外の独立系エレベーター保守会社アイ・テック24と(一社)地域防災塾「ざ・ふだん」が閉じ込め救出プログラムを作成、千代田区の外郭団体である(公財)まちみらい千代田に協力して、希望するマンションの管理組合を対象に救出訓練を実施しているのが数少ない事例である。 


 エレベーターメーカーや系列保守会社が、マンションの管理組合を含む建物管理者等が閉じ込めに対応することに消極的な背景には、救出作業に昇降路への転落等の危険がある他、後述するように過去に子どもの悪戯が頻発したことがあった。また、地震で閉じ込め件数が少なく、発生したときも早期に救出できていることがあるだろう。例えば6434人の死者が出た阪神・淡路大震災では発生時刻が早朝だったこともありエレベーター閉じ込めは156件、津波等で1万8000人以上が犠牲になった東日本大震災でも210台、2度の震度7を記録した熊本地震でも54件だった。こうしたなかで2018年6月に発生した大阪北部地震では閉じ込めが346件と突出して多かったこともあり、国土交通省は大阪北部地震のエレベーターの被害状況を詳細に調査、「エレベーターの地震対策の取組みについて(報告)」を2020年7月に発表した。
 この報告は閉じ込めの発生については「そもそも閉じ込めが起こりにくいエレベーターの普及が重要であり、地震時管制運転装置の普及、リスタート運転機能を含めた装置の高機能化が必要である」とし、閉じ込め時の早期の救出については「エレベーターの保守事業者の閉じ込め救出体制の強化や保守事業者以外の者でも救出が行えるよう研修等の充実が必要である。ただし、救出の地震に当たっては昇降路への転落等の危険性があるため、平時より専門家の元で十分訓練を受けることが必要である」としている。
 改めて言うまでもないことだが、首都直下地震は1万数千人の死者、15万人近い負傷者を想定。これまでとは比較にならない都市インフラへの被害が予想される。過去の経験から閉じ込められた者への対応をエレベーター保守会社や消防隊だけに委ねることは適切でない。
 確かに訓練を受けたことのないマンションの管理組合役員、管理員、居住者等が救出活動を行うことには危険が伴う。しかし、管理組合役員を含む建物管理者、防火管理者等が一定の研修を受講し、専門家が到着する前に少なくともエレベーター乗り場の扉を解錠し、食料・飲料水・簡易トイレ等の物資を提供するだけでも、閉じ込められた者の恐怖心を緩和する等、状況を改善することが出来る。また病人等がいることが分かれば救急隊に早急な救出を要請することもできる。
 かつて共同住宅のエレベーターはカゴの戸を手動で開けることが可能だったようだが、団地等が大量供給された「昭和40年代の中ごろから、乗場のドアを解錠し半開き(エレベーターは停止し、運行不能となる)にして逃げるという遊びが流行した。これに対して、解錠キーの形状複雑化やキー穴を目立たなくすることなどで対応した。また、やはり昭和40年代、エレベーター乗り捨て遊びが流行した。エレベーターカゴ内部から揺すり、マグネットブレーキを効かせてエレベーターを止める。中の子供たちは、乗場ドアの施錠装置を昇降路の内側から解錠させ抜け出す。こうして『原因不明事故が』が高層団地を中心に頻発し、昭和40年代の末から『救出』するという設計思想に変わった」という*。
 こうした経緯も踏まえてマンションにおける現実的なエレベーター閉じ込め対策を、行政の協力も得てマンション管理に携わる者が協働で検討する必要がある。

*戸塚英雄「エレベーター閉じ込め事故と人命安全対策」安全工学Vol.50No.4(2011)

2021/7/5 月刊マンションタイムズ

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