将来的な業界のイメージを視野に
新商品や生産性を高める手法を編み出す
超高齢社会を迎えた中で増え続けるマンションストック。建物の老朽化と入居者の高齢化に加え、管理員の高齢化という「三つの老い」が進み、修繕・改修工事等も含むマンション管理の重要性がますます高まっている。このコーナーではトップインタビューを通じてマンション管理の未来を追う。今回は、新規事業の開発に積極的に取り組む三菱地所コミュニティの駒田久社長に、今後の戦略や業界の見通しなどについて聞いた。
新規供給に依存しないビジネスモデルへ変革
――マンション管理業の課題と戦略について。
駒田氏 2016年に三菱丸紅住宅サービスと三菱地所コミュニティが合併して統合の実務作業が終わり、ようやく通常の経営課題について真正面から対応できる体制になってきた。いわゆる「三つの老い」など管理業界が抱える課題に積極的に取り組んでいきたい。
マンションの新規供給に多くを見込めない中で今後のことを考え、新規供給に依存しないビジネスモデルへの変革を課題にしている。既存の物件の中で生産性を高め、専有部サービスや修繕工事などの周辺事業でしっかり収益をあげていくこと、さらにその先の管理のあり方としてデジタル技術などを活用した新しいビジネスの模索という3点に取り組んでいきたい。
――課題に対して具体的にどう取り組んでいくのか。
駒田氏 新規事業については事業戦略部に「新事業推進室」を設置した。事業戦略部やマンション管理の部門で社内のデジタル化に対応したビジネスツールを開発し、運用していくという取り組みをすでに始めている。
また、事業統括部の中に「事業強化推進室」を設け、フロント業務の仕事のあり方についての定義づけや強化策を検討している。新しい時代に向けてフロントのあり方についての検討は必要だ。昔に比べて業務は多岐にわたり、マンション管理適正化法の規制もある中、デジタル対応のサービスが登場している昨今の状況下で、周辺ビジネスの拡大を狙う意味においてもフロントが核になっていく。全体のレベルアップのために何ができるのか考えていきたい。
時間と場所から業務を解放する
――コロナウイルス感染症対策によるマンション管理業務内容の変化について。
駒田氏 現況はマスクや消毒薬といった防御措置を講じながら、事業を継続している。これまで相対で行うことが前提だった管理業務が非接触でも良いということを訴求できる機会になってきていると思う。これまで管理業界は労働集約型で、特定の場所に特定の人間を特定の時間に張り付けることで業務の適正さを担保するというビジネスモデルになっていた。労働力不足が深刻化する中、持続可能なビジネスモデルなのかという観点でビジネスモデルを変える契機になればいいと考えている。
社内では「業務を時間と場所から解放しましょう」という話をしている。デジタルの活用のほか、複数の受託物件をひとつの単位にして、ある程度限られたエリアの中でオペレーションしていく展開が可能か模索している。
一方で、お客様の多くは現状のサービスレベルを維持しながら、できれば価格を抑えて提供してほしいという声が根強い。労務費が高騰し、人手不足が深刻化していく中で今までのサービスを今までの価格で提供することは難しくなるので、生産性を高める手法を編み出していかないと企業として存続できない。そこにデジタル技術が加わっていくことになると思うので、デジタル技術に対する投資は怠らず、取り組んでいきたい。
組合が機能していないマンションを再生する議論を
――マンションの質を向上させる取り組みについて。
駒田氏 当社のブランドに対 する期待感や信頼感は高いので、それにマッチしたサービスを提供したいという思いは強い。基本に忠実なことをお客様に対して見える化してサービスを提供することが大事ではないかと考えている。ただ、お客様によってさまざまなニーズがあることは認識しており、管理のサービスは今後より多様になっていくという感触を持っている。
――マンション管理業協会のマンション管理適正評価制度や国のマンション管理計画認定制度のスタートが控えている。
駒田氏 マンション管理を見える化することは大事なことだ。ただ、協会の管理適正評価制度と国の計画認定制度がお客様からすると分かりにくいところもあるので、すり合わせが大きな課題になってくると思う。
管理の内容をオープンにして一般のお客様がアクセスするようになれば、おそらく管理の質は資産価値に反映されるようになっていくと思う。こうした評価の意義を管理組合にご理解して頂いて情報が公開されることで、市場の中でマンションの管理が重要だということが周知されると良いと思う。
しかし、一方で管理組合自体が機能しておらず、集会で意思決定ができないマンションもある。そのようなマンションは管理不全が放置され資産価値の下落が止まらず社会的損失も大きい。管理組合に集会の機能があって意思決定ができるのであれば敷地売却や建替えという選択ができるが、組合が機能していないようなマンションへの対応については、空家対策特措法よりもう少し踏み込んだ議論ができなければ、管理不全マンションが増えてしまう恐れがある。管理会社のノウハウが政策に協力できる余地は大きいのではないか。
マンション管理の未来 ㊾三菱地所コミュニティ・駒田久社長(下)へ続く
2021/6/5 月刊マンションタイムズ