国土交通省から事故物件に関し、宅建業者が売買や賃貸の契約者に告知する対象についてのガイドライン案(心理的瑕疵ガイドライン案)が発表されたことを巡り、宅建業界やネット上で様々な意見が噴出している。
今回のガイドライン案のポイントは、①病気、老衰、転倒事故による死亡(自然死及び不慮の事故死)は告知の対象外 ②殺人、自殺、火災による死亡は告知の対象 ③賃貸については②の事案の発生から3年が経過すれば告知は不要ー といったもの。
国土交通省では学識経験者による議論に加え、入念なヒアリング、消費者を含めたアンケート調査などを行い、事故物件を巡り宅建業者が自ら売主・買主となる場合、売買・賃貸について媒介を行う場合に告知の範囲を明確にした。ガイドラインに強制力はないものの、内容を宅建業者に周知することで取引後の訴訟トラブルなどを回避することが狙いだ。
事故物件流通ポータルサイト「成仏不動産」を運営し、自ら宅建業者として事故物件の売買・賃貸などを行う、株式会社MARKS(横浜市)の花原浩二社長は「これまで事故物件は宅建業法で告知の必要があるとされていたが、具体的な取り扱いは業者個々の判断に委ねられており、明確なルールがなかった。今回のように国がガイドラインを示したことは大変良いこと。今後事故物件の取引に向けて議論が活発になればいいと思う」と評価する。
ガイドライン案では、賃貸の場合は事案発生から3年で「心理的瑕疵が無くなる」ということになる。取引におけるルールが具体的な数値となって明確になったことは良いとしても、人間の心理として3年という年数はどういう意味があるのだろうか。
事故物件サイトがさらに活気付く可能性も
花原氏は「損害賠償になるかならないかという線引きだ。それは必要であるとして、借り手としては、このような考え方が納得できるかどうか」が課題だと考える。これまでの取引ではまがりなりにも、告知事項がある前提で取引されていたが、「○○について告知しなくて良い」となると、エンドユーザーには不満が残るかもしれない。「本当にこの物件が事故物件でないかどうか、探し出そうとする人が必ず出てくる。ガイドラインの存在がかえって『事故物件の闇』を深くすることがあってはならない」(同)と指摘する。
3年が経過しようがしまいが、「大島てる」のような事故物件情報共有サイトが存在しており、気になる人はネットで検索して情報を得ようとする。なおガイドライン案には宅建業者による調査の項目として「周辺住民への聞き込みや、インターネットサイトを調査するなどの自発的な調査を行ったりする義務はない」とした上で、「サイトや過去の報道等に掲載されている事項は正確性の確認が難しい」ため慎重な対応が必要であるとした。つまり宅建業者は、大島てるサイトをチェックする必要がない、ということになる。
事故物件を安く買って、高く貸せる
今回のガイドラインがそのまま成案となった場合、事故物件の取引にはどう影響を与えるだろうか。花原氏によると「業者が売主から事故物件を買い取る場合は、告知を伴うため安く買えることになる。一方で、その物件を賃貸に出す場合は、事案から3年が経過していれば借主に告知をしなくて良いので、家賃が減額になることはない。つまり、『安く買って、高く貸せる』ということになる」と述べる。市場に安く滞留する事故物件を、投資用不動産として活用する動きは一般的になりつつあるが、こうした事故物件投資市場が活気づくことには繋がるのかもしれない。
同ガイドライン案は、国土交通省が20日に公表。6月18日まで一般から意見を募った上で内容を最終決定する。