コロナ禍の影響から世間全体が脱却しつつあるなか、人流の戻りとともに都心型商業施設にも活気が見られる。旅行需要を捉えて1足早く回復を見せ、アップサイドシナリオの描きやすさから投資家の注目が高いホテルアセットに続いて一段の市況上昇局面となるのか。コロナ禍でテナントのおよび運用者がどのような活路を見出したのかを今一度整理することで、都心型商業施設が持つ今後の投資妙味と見通しを追った。
近接消費から都心消費への回帰
アップサイドを見込む投資家の動き
多くの人々を集客する都心型商業施設(以下、都心型)が再びその強さを発揮し始めた。コロナ禍では、生活密着型商業施設が底堅さを示し、それらを組込むリートやファンドは投資家から注目を集めた。一方の都心型は、2021年9月末が最後となった緊急事態宣言解除を受け、「2022年春頃からは右肩上がりの回復基調に入り始めた」(KJRマネジメント荒木慶太執行役員都市事業本部長)。さらに、インバウンドの流入が始まった足元では、主にラグジュアリーブランドの売上がけん引し、コロナ禍前の2019年対比でも「過去最高の売上高を記録している」という声が複数の関係者から上がっている。
コロナ禍では、飲食店やインバウンドに依拠した一部アパレル店舗らが大打撃を受けるなか、巣ごもり需要や富裕層の消費欲求をとらえたテナントが都心型を支えてきた。代表格は、価値を棄損しにくい時計やラグジュアリーブランド品。銀座や表参道のプライムエリアの中でも銀座・中央通りなど目抜き通り沿いでは、空室が出れば出店のチャンスと見るハイブランドの動きがあり、大きく賃料を下げることなく推移した。だが同エリアでも1、2本道を挟んだ通りや商業施設では一定の退去が生じた。その埋め戻しには、「本来ならばオーナーは相乗効果を狙い価格帯が近似のテナントを入れようとするが、巣ごもり需要を獲得した低価格帯のテナントが入居を決める例も見られた」(奥村眞史CBREシニアディレクター兼本部長)。2022年4月に東京・銀座の商業施設「マロニエゲート銀座」にオープンした100円ショップの「DAISO」と300円ショップの「THREEPPY」&「Standard Products」は、象徴的1例と言える。空中店舗に目を向けると、外出で消費できない資金は自己投資や生活快適性を志向するニーズへと向かい、特に美容系テナントの出店が目立った。だが、「旅行消費を始め資金の行先に変化が見え始め、足元では若干出店需要が弱くなっているようだ」(川村仁FPG執行役員)という指摘があるとおり、コロナウイルスを「5類」とするアフターコロナへと都市のニーズは移り変わっている。
CBREによれば、2022年第4四半期の東京・銀座ハイストリート賃料は前期比3.8%上昇の25.07万円月/坪、同表参道・原宿では同2.7%上昇の18.88万円月/坪。同社によれば、例えば銀座では任意の5地点を設定し、仮に1階・200㎡(約60坪)の整形区画が募集した場合の成約賃料を想定している。前出の奥村氏は今調査の賃料上昇について、「銀座の5地点中3地点がラグジュアリーブランド立地であり、この上昇がけん引した」という分析を示した。加えて、1月から同社に対する案件の問合せは大幅に増加しており、2023年の第1四半期では空室率の低下、およびテナントの売上上昇と空室に対する競合により賃料は上昇する可能性を予想する。
こうした環境下、テナントの安定的収益確保、賃料の上昇というアップサイドストーリーが描きやすい状況が見え始め、「2,3年コロナで商業施設への投資を控えていた投資家も回復を見込んで、買いに動く兆しがある」(前出の川村氏)。他方、日本での金利上昇や欧米を中心に自国の金融市況から売りに動く投資家も一定存在すると見られ、なかなか優良物件が売りに出ないと言われるプライムエリアでも売買市場には活気が見られそうだ。