マンション管理業界におけるデジタル化が加速している。ITを活用したマンション管理業務の効率化は、管理員不足を補う省力化にとどまらず、マンション管理業務に管理会社を介在させない自主管理支援アプリの登場、マンションという共同体で利便性を高めるためのサービスの開発へと多角的な展開を見せた。そしてDX(デジタルトランスフォーメーション)によって、「データの蓄積」から業務改善や新たなサービスの開発へと進化を遂げようとしている。管理業界が長年抱えてきた労働集約型の産業構造と慢性的な人材不足、住民や管理員の高齢化といった課題に、新型コロナウイルス感染防止のためのデジタルによる非接触への取り組みが背中を押した。業界の動きを通して、管理業界のデジタル化の進捗を探った。
資料の電子化や顔認証技術の活用ー業務効率化だけでなく、住民の暮らしへ還元
管理費等の請求書や管理契約書を電子化する仕組みは、大和ライフネクストの「管理費等請求書WEB照会サービス」や大京アステージ・穴吹コミュニティの「マンション管理契約電子化サービス」、三菱地所コミュニティの「MJCBOX」など複数社で導入された。紙の保管場所についての悩みや書類の紛失の問い合わせから解放され、管理会社側の事務作業の効率化が図れると共に、区分所有者が自分のパソコンからいつでも確認ができるようになった。管理に関わる資料が電子化し、区分所有者の目に触れる機会が増えることで多様な要望が寄せられたり、また電子化した情報を活用した分析や新たなサービスが展開される可能性がある。
顔認証によるエントランスの開錠も大京アステージのほか、穴吹ハウジングサービス等複数社が取り組んでいる。大京アステージ・穴吹コミュニティは協力会社の社員が清掃や設備点検などのためにマンション共用部に入る場合、管理員が現地で開錠をしていたが、顔認証やワンタイムキーの設定によって管理員の立ち合いがなくても入館管理を行えるようにした。
穴吹ハウジングサービスは顔認証の仕組みをマンションに併設した居住者専用の無人店舗のスーパーマーケットの開錠に活用した。同社はジョイフルサンアルファ、NECソリューションイノベータと共同で、2019年に24時間営業の小型無人店舗の開発を行っており、穴吹ハウジングサービスが長崎市で受託するマンションのエントランスに実証実験のために設置した。さらに2020年には大型多棟タイプのマンションに対応するため、マンションのエントランス内ではなく、敷地内にトレーラーハウスを設置する方式を開発し、長崎市内の別の管理受託マンションに無人スーパー「FACE MART」を開店した。セキュリティーや利便性、業務効率化だけでなく、住民の暮らしを「シェア」の発想で支える意味で、こうした技術が活用されたことに新しい取り組みだといえよう。
新型コロナウイルス感染拡大期に差し掛かり2度目の緊急事態宣言が発令された。従来の管理業務の見直しがさらに進むこととなる。管理業務のデジタル化や業務の取捨選択など検討を各社が進めた先に、新たなマンション管理の可能性が見いだせるのではないか。
月刊マンションタイムズ 20年2月号