経済回復とともに不動産市場も正常化―不透明感続くオフィス市場の動向に注視を― 大竹グローバルキャピタルLLC 代表取締役 大竹正史
大竹正史氏

 ニューヨーク州は4月1日に、コロナワクチン接種対象者の年齢を16才以上に引き下げ、5月1日までに全成人をワクチン接種対象とするというバイデン大統領の目標を上回った。7月4日(独立記念日)までにワクチン接種を完了して「正常化」の道筋を確実にしたい、という大統領の掛け声に応じて国全体が動いている。
 感染者数減少とワクチン接種によって、街には人が戻っている。閑散としていたマンハッタンのタイムズスクェアに(国内)観光客の姿が目立ちはじめた。着ぐるみの大道芸人が出て、お土産物屋もシャッターを開けた。屋外営業していたレストランには、段階的に屋内飲食が認められ、現在は定員の50%までの客入れが可能となっている。
 感染症救済策は全国民対象なので、議会の動きも素早く、たて続けにケタ違いの巨額経済対策が決まった。経済再開につれ雇用も急速に回復している。株式マーケットも市場最高値を更新する勢いで、昨年の今頃と比べると雰囲気はかなり明るい。
 国民融和を掲げて就任したバイデン大統領の滑り出しは上々と言えるだろう。

落ち込みは比較的浅かったものの
セクター差は顕著


 2020年、コロナ感染の爆発的拡大(パンデミック)に伴うロックダウンや人種差別抗議デモにより都市機能麻痺など、不動産マーケットは足下が揺らいだ。不動産物件の債務不履行による投げ売りが市場を壊し、新たな債務不履行を促すという最悪のサイクル、金融危機の再現を危惧した人も少なくなかった。市場崩壊を見込んで、投げ売りされた物件を買って儲けようと投資家から資金を募ったファンドも短期間に多数組成された。
 だが、パンデミックから一年が過ぎ、「ハゲタカファンド」が集めた資金は今のところ期待したほど商売ができていない。投資家、レンダー、ディベロッパー等不動産プレーヤーは、パンデミックに対して冷静に対応した。金融機関は、一時的にキャッシュが回らなくなった物件から機械的に融資を引き揚げることなく、回復の可能性がある物件に対してはさまざまな「猶予」を与えた。また、新規融資の門戸を閉ざすということもなかった。
 実物マーケットよりも流動性が高い上場リート株もロックダウンと同時に40%程度の大幅下落となったが、今ではパンデミック前の水準に戻りつつある。 
 商業用不動産マーケットのマクロ指標である売買取引ボリュームを見ると、2020年は全米で約40兆円、前年比30%の減少にとどまった。9月のレイバーデー以降の売買マーケットの回復は顕著で、第4四半期だけで見ると 2019年並みのボリュームに戻った。金融危機の際には、売買取引が2007年のピークから90%減少と売買マーケットが機能不全に陥ったことと比べると、今回の調整は小幅にとどまっている。
 個別に見ると大きくダメージを受けたセクターと、むしろ需要が高まったセクターの差が顕著である。人の移動が激減したことでホテルセクターは大きなダメージを受けている。ロックダウンにより営業が制限された小売業、レストラン等のリテールセクターも同様だ。実店舗の休業や感染への警戒から小売額に占めるEコマースの割合が急増し、そのEコマースを支える物流不動産は空前の好況だ。そして、ロックダウンした都心から転地した人向けの郊外型賃貸住宅も需要が増加した。この傾向は世界共通だ。

オフィス需要への懸念と
Mixed Signal(不透明感)


 これらの一時的に「歪んだ」需給傾向はパンデミック収束後には揺り戻しがあると思われるが、オフィス需要は収束後も低落傾向となるのではとの懸念がある。リモートワーク(WFH=Work From Home)がスタンダードとなり、企業がオフィス賃借面積を減らすとの懸念だ。マンハッタンでは、オフィスの人の戻りは 15~20%程度で、いまだに多くの従業員がWFHを続けている。従業員に対して期限を切らずに永久にWFHを認めるとしている大企業の経営者も少なくない。
 マンハッタンの 2020年末のオフィス空室率は、2019年末から4.1%増加して15.2%となった。WFHにより新規のオフィスリースが減少したことに加え、テナントが当面の不要賃借スペースを賃貸に出す「サブリーススペース」が増加したことが原因。ビルオーナーの直接の空室増加は2%にとどまったが、サブリース面積が2%増えたことで空室率は前年比4%の大幅増となった。新規需要は少ないものの、テナントはほとんど使っていないスペースに対しても賃料を支払い続けており、ビルオーナーは付帯条件(フリーレント、内装工事費負担等)を緩和することで、極力募集賃料の減額を抑えている。
 一方で、オフィススペースを拡張しているテナントもいる。グーグル、フェイスブック、アマゾン、といった業績好調企業はパンデミックの最中ですら、次から次へと千坪単位でマンハッタンでオフィススペースを拡張している。フェイスブックのザッカーバーグCEOは無期限のWFHを認めているが、その一方でオフィス面積をチャンスとばかりに急拡大している。日本のサントリーが買収したJim Beamはマンハッタンに新規に3000坪のオフィスを賃借し、シカゴ本社をマンハッタンに移転すると発表した。
 経済再開とともに不動産マーケットも「正常化」する中で、中長期のオフィス需要については現時点でポジティブとネガティブなサインが交錯している。オフィスマーケットについての見極めが、2021年の不動産マーケット全体の動向を捉える上での最も重要なテーマの一つとなる。

2021/4/7 不動産経済Focus&Research(旧・不動産経済FAX-LINE)

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