地域拠点型サービス付き
高齢者向け住宅の誘導・整備
<高齢者の住まいの再生が急務>
二つ目の大きな課題は、約半数に及ぶ高齢者の安心居住の実現である。高齢化率は約5割で、昨今は特にサービス付き高齢者向け住宅(以下、「サ高住」)の入居の中心年齢である85歳以上の人口が顕著な増加で、後期高齢者人口が前期高齢者より多い。今後約5~10年はこの傾向が続くと推計されている。
世帯別でみると、圧倒的に「単身高齢者」(約3割)が多く、高齢夫婦のみ世帯を併せると全世帯の5割強が「高齢者のみ世帯」である。高齢者世帯にとって団地は住みやすいか? 馴染みある住み慣れた地域ではあるが、身体が弱化した高齢者にとって決してアフォーダブルな住まいとは言えない。
私が関わっている2団地とも丘陵地を削って住棟を分散配置しているので、屋外空間の豊かな団地ではあるが団地内の高低差が大きく、要支援高齢者には住みやすいとは言えない。しかも、中層棟にはエレベーターがないので移動の困難さが浮き彫りになっている。エレベーターのない賃貸棟では5階から1階への住み替え希望は多いが、1階の空室はすぐに埋まってしまうので住み替えは容易ではない。
団地内には高齢者入所施設もショートステイも見守りサービスもないので(近隣に点在している)賢明な居住者は早めに転居するため、80歳を超えての転出率は高いのが現状である。
地域包括ケアを実現するための医療・介護サービスの事業者連携は経営基盤が盤石にもなるのでそれなりに進みつつあるが、地域包括ケアシステムの中心である「高齢者の住まい」の再生の動きはない。しかし、水面下で事件は起きている。
新聞配達人が異常に気付き、警察署と連携して開錠して死後数カ月経っていたとか、あるいは、別に暮らす子供が久しぶりに訪問して親の暮らしぶりから、急遽介護認定調査を行い施設に転居した事例など話題に事欠かない。問題の真相が可視化できないだけである。
関係者は困っていないので、ゆでガエル現象で成り行き任せの状況にあるようにも見える。
早期に対応できていたら、結果は違っていたのではないかとも思う。
<高齢者の孤立化と住まい>
入居第一世代は都会の無縁性を受け入れて転居してきた世代なので、子育て期以降は基本的に団地内では他者との交流が少なく、孤立化した暮らしを営んでいる。団地だからこそ、孤立化してしまっていたのではないか?
多様なライフスタイルが実現できる団地に変容することが、結果的に現高齢者の「生きる意欲」を喚起すると考える。
他者との交流頻度が高齢者の健康リスクに与える影響は大きいと言われているので、コミュニティ活動が低調になってくると居住者の孤立化も、介護度も進む。社会関係性の再構築は難しいが、多様な世代の混在した居住者構成にすることで、可能性が開かれると考えたい。
一方で、身体弱化と共に介護を受けながら暮らすことになるが、介護を受けながら団地で暮らしているロールモデルがなく居住者相互の共通の理解がないことは、団地で暮らし続けていくことの障壁になっているかもしれない。さらに、軽度認知症高齢者の単身居住もあたりまえになりつつあるが、近隣の理解不足もあって日常生活上のトラブルも増えてきている。
<高齢者も住まいの選択肢を広げる>
多様な介護度レベルの高齢者の安心居住を確保するためには、高齢者の住まいの選択肢を広げることが必要である。「コミュニティが嫌いなのでマンションに入居した」住民ももちろんいる。
身体自立度の状況や好みに応じて、住み替えられる住まいの多様性が必要となろう。介護を受けながら団地に住まうことは一般的になりつつあるが、エレベーターのない中層棟では車イスや杖歩行になった場合の居住継続は難しい。介護保険サービスのほかに、量的な充実が必要となると思われるのは「見守りサービス」「生活支援サービス」「看取り対応」だろう。
「見守りサービス」といっても手法は多様に考えられる。間接的、巡回、サ高住の必須サービスのようなスタッフ常駐スタイルもある。常時介護が必要になった時に対応できる24時間職員配置している施設が併設しているとその施設を利用しなくても、先人を見ることで心の準備もできるし、自己決定の準備もできる。
<団地再生で誘導したい高齢者の住まい>
介護保険施設を除けば基本的に有料老人ホームとサ高住である。計画誘導して団地再生を進める基本的な方向性は、下記と考える。
1.団地内に24時間スタッフ常駐の施設を併設する。サービス利用の有無にかかわらず身体弱化しつつある単身高齢者の安心居住に貢献できる。ただし、共用施設等は地域に開かれていること。小規模多機能型居宅介護事業所、入院施設を持つクリニックがあると医療との連携で看取り対応ができる。
2.併設施設は地域住民が取り組む地域福祉活動拠点スペースを併せ持っていること。
3.サ高住の配置は既存住棟を積極的に活用する。
・エレベーターのある住棟は、増えてくる空き住戸を活用した分散型サ高住を検討
・空き住戸の集約等で生まれた既存住棟の活用を積極的に検討する。ワンフロア活用、住棟の一部ゾーン活用など
・住人不在の空き家状態の分譲住戸が増えている。それらを活用した整備促進策が実現すれば団地の治安、防犯上も効果的
・区分所有オーナー・管理組合・運営会社との協働で分散型サ高住として運営に関与
4.食堂等の共用部分は地域開放する。施設利用者だけではなく団地住民「みんなの食堂化」できるよう運営手法を工夫する。
高齢者の住まいを団地の枠組みで見ると、団塊の世代が後期高齢者になる2025年、その後介護需要量が集中する時期を迎える。サービスを提供する介護人材の必要人数、施設需要量が大きく膨らみ限界に達しないとも限らないが予測できない。
まずは、地域の地権者が協働で取り組めることを共有する「団地再生プラン」が策定できることが望まれる。(完)
2021/2/24 不動産経済FAX-LINE