3月26日、多摩ニュータウン(以下、多摩NT)に、最初の住民が入居してから50年になった。総面積約2,884ヘクタール、多摩、八王子、町田、稲城の4市にまたがる、山手線内側の半分に近い広さの丘陵地帯を開発したのは、420万戸といわれた戦後の住宅不足と、1950年代・60年代に計600万人超が首都圏に流入したことに対処するためだった。64年の事業着手から7年足らずで入居開始に至ったことが示すように、日本が最も元気な時代を象徴する事業である。開発当初と社会経済環境が大きく変わるなか、まちも集合住宅も再生の検討が必要な時期を迎える多摩NTのこれからを考える。
マンション再生を支援する地域の専門家集団
現在、多摩NTには10万世帯、22万人を超える人々が生活をしている。東京23区の人口密度は1ha当たり約150人だが、多摩NTは約76人。豊かな自然環境の中でゆとりある生活を送っているが、高齢化や人口減少によるコミュニティーの希薄化も危惧されている。その半面、リニア中央新幹線の駅が隣接する相模原市にでき、多摩NTの南縁を横断する尾根幹線や圏央道等の道路網の整備により、交通環境が大幅に向上、先端産業の集積も見込まれるなど、新たな動きもある。
これらの課題と可能性を踏まえて、東京都は2018年に「多摩ニュータウン地域再生ガイドライン」を策定、新たなイノベーションの拠点とする等の方針を示した。多摩市も16年3月に「多摩市ニュータウン再生方針」を策定、その後、「多摩市ニュータウン再生推進会議」における検討を踏まえ「多摩ニュータウン リ・デザイン 諏訪・永山まちづくり計画」を策定した。八王子市も多摩ニュータウンまちづくり方針を策定している。16年3月末で新住法による事業が終了した都市再生機構(UR)も、2018年12月に「ŪR賃貸住宅ストック再編・再生方針」を発表し、多摩ニュータウンにおいても、永山、諏訪、貝取、豊ヶ丘などで管理する約1万戸以上の賃貸住宅を中心に、既存建物の再生・活用を図ることを基本に、地域医療福祉拠点化等を含む取り組みをしている。
多摩NTには集合住宅だけでも、都営住宅、URや東京都住宅供給公社が供給する賃貸住宅の他に、多数の分譲マンションもあり、一体感のあるまちが形成されている。東京都、UR、各市等は、それぞれが管理する、住宅や施設の建替え等を中心に再生に取り組むことになるが、各マンションの管理組合がまちづくりに果たす役割も大きい。
多摩NTには、複数の建築物を同一敷地内にあるものとみなした一団地認定制度で建設されたところも多い。マンションの再生には、敷地の再整備や道路の敷設が必要なこともある。区分所有法等の知識だけでなく、幅広い視野をもつ構想力やデザイン力、調整力等が求められる。幸い多摩NTにはまちづくりに関係する多くの専門家が居住している。公団や都の職員等として事業に係った人も少なくない。専門家と生活者という複眼の視点で、行政と住民や事業者をコーディネートし、地域づくりや団地再生に取り組むことができる。
例えば、NPO法人多摩ニュータウン・まちづくり専門家会議(たま・まちせん)は、ニュータウン開発を担ってきた公的機関が役割を終え、主体が住民に移る時代の持続的なまちづくりを目指し、管理組合等への支援、調査研究等を積み重ねている。諏訪二丁目住宅の管理組合理事長として建替え事業を成功に導いた加藤輝雄氏が代表を務める、集合住宅環境配慮型リノベーション検討協議会(エコリノ協議会)は、居住環境の向上や環境負荷低減を目指し、行政とも連携して管理組合の大規模修繕工事等を支援している。
現在、多摩NTと近隣には15の大学のキャンパスがあり、ニュータウン開発時には想定されていなかった知の拠点になっている。高度経済成長期にスタートした多摩NTは、50年後の現在、少子・高齢・人口減少による諸課題を解決する、新たな発想によるまちづくりが展開されている。
多摩マンション管理士会長でたま・まちせんの理事長も務め、ニュータウンの再生に取り組んでいる戸辺文博氏は「多摩NTは、公共が多額な資金を投入して基盤整備と団地等の住宅を建設しました。集合住宅も都営住宅やUR等の賃貸住宅と、多くの分譲マンションが共存し、一つのまちとしての景観と生活圏を形成しています。諏訪二丁目住宅(23棟640戸)を建替え、ブリリア多摩ニュータウン(1,249戸)が誕生したときも、たま・まちせんをはじめ地域の専門家が知恵を出し、多摩市も周辺の環境整備を行いました。NTの重要な構成要素であるマンション再生を進めるためには、一般の既成市街地とは違う公共と民間の連携等による、新しい発想と取り組みが必要だと思います。」と話している。
2021/4/5 月刊マンションタイムズ