不動産経済アーカイブ;「あの時はこうだった」東日本大震災⑧特集 東日本大震災被災地ルポ・福島


借上げ制度で民間賃貸住宅市場が逼迫
 ―地元業者は夏場以降の物件不足を懸念

 東日本大震災で特に甚大な被害を受けた岩手、宮城、福島の3県。その中でも福島県は、震災に加えて福島第1原子力発電所の事故が重なり、他の2県とは違った形の被害を受けている。震災から2カ月が過ぎ、内陸部や、沿岸部でも津波の影響を受けていない地域では日常回帰のフェーズに入っているが、原発事故の動向は不透明で、今後の見通しは立っていない。そうした中、民間賃貸住宅市場は被災者の入居が相次ぎ、需給が逼迫している。
 福島県の主要都市は、日常を取り戻しているようにみえる。主要な道路と鉄道は既に復旧しており、福島市や郡山市など津波の被害がない地域のスーパーやコンビニも通常どおり営業している。不動産仲介業者も、福島県宅地建物取引業協会の安部宏会長が「4月に入って、3月に引っ越すはずだった人たちが動き出した」というように、震災で吹き飛んでしまった3月の引越し需要を取り戻してきている。いわき市の不動産仲介業者、石井企画の高木徹・売買流通部本部長は「震災直後は人通りがなく異様な雰囲気だった」と当事の状況を振り返るが、今は街に人と車が溢れている。
 表面的には日常を取り戻しているようにみえるが、街を走っている車を見ると「災害派遣」と書かれた自衛隊の車が頻繁に目に付く。仲介業者の店頭に来る顧客の中には被災者も少なくない。民間賃貸住宅の需給が逼迫しているのも、民間賃貸住宅を応急仮設住宅として県が借上げる制度が本格化したため。震災前と同じ生活を取り戻した人も多いだろうが、依然として震災対応に従事している人も少なくない。
 前出の安部会長によると、「震災から2週間後に、県全体で1万2000戸の空室を集めたが、あっという間に埋まってしまった」状況であり、震災直後から急激に需要が増えた。さらに、福島県による借上げ制度が本格化したため、郡山市の仲介業者アイハウスの横田正一・代表取締役は「被災者の方が店頭に来ても物件を紹介できない状況」と話す。前出の石井企画の高木氏も「来ていただいたときに、タイミング良く空き物件が出てこないと紹介できない」と話している。
 福島県による民間賃貸住宅の借上げの契約内容をみると、「家賃上限6万円」「仲介手数料0・5カ月」「退去修繕負担金として上限家賃2カ月分」などを、県が負担する契約となっている。敷金と礼金は負担しない。実際に被災者が入居するかどうかに関係なく、県と契約した段階で家賃や仲介手数料は発生するため、空室のままでも家主は家賃収入を得ることができる。業者からしてみても特需の状態だが、「このままだと夏場以降に仲介できる物件が出てこない。需要が平準化したほうが経営がしやすい」という業者もいる。また、県による借上げの仲介手数料は0・5カ月分。仲介手数料は原則として、貸主と借主の双方から0・5カ月分まで受け取ることが可能だが、仲介業者は1カ月分の仲介手数料を借主から得ることを通例としているケースが多い。こうした業者が残りの0・5カ月分を得るのは、家主との交渉次第となる。
 全日本不動産協会福島県本部の久保田善九朗・本部長は、「この状況が経済の活性化につながるかは疑問」としているが、毎日のように仲介業者を被災者が訪ねきているのが現状。久保田氏は、「被災者対応が最優先」と話す。
(2011/05/19 日刊不動産経済通信)

原発事故で復興プラン実現に不透明感
 ―原発30㎞圏内は地価調査を実施せず

 原発事故の影響で、他の被災地にはない課題を福島県は抱えている。民間賃貸住宅の借上げも、福島県特有の問題で入居者と物件のマッチングを難しくしているケースがある。民間賃貸住宅を応急仮設住宅として県が借上げる制度が本格化し、応急仮設住宅の施工を待たずに、民間賃貸住宅への入居を希望する被災者が多い。ただ、福島県宅地建物取引業協会の安部宏会長は「原発事故で警戒区域などから避難してきた人は、物件を見た段階で断るケースがある」と話す。
 福島県では、基本的に、民間賃貸住宅と入居者のマッチングを地元の市町村が行っている。ここでマッチングが済んだものについて、最終確認として仲介業者が入居者に物件を紹介する流れになっている。自宅が全壊した人などは、避難所以外に住むところがないため、すんなりと入居が決まるケースがある。しかし、警戒区域などから避難してきた人は、地元に家が残っているので家を失ったという意識はない。そのため、「物件の質が低いと言って断られてしまう」(アパマンショップ郡山駅前店)ケースも少なくない。
 不動産鑑定評価をする際も、地震・津波の影響のほかに、福島県は原発事故の影響も考慮しなければならない。震災直後に発表された地価公示は11年1月1日時点の調査だったので、震災の影響が加味されていないが、9月に発表する7月1日時点の都道府県地価調査には震災の影響を反映する必要がある。しかし、福島県の場合は、地震と津波に加え、放射能の被害もある。福島県不動産鑑定士協会の小橋達夫会長は、「福島第1原発から30㎞圏内の地域と飯館村は、今回は地価調査を実施しない。その他の地域については、放射能の影響をどの程度地価調査に反映させるか現在検討中」としている。
 原発事故は、復興への動きにも大きな影響を与えている。福島県の不動産業界団体や宅建業者に今後の見通しについて尋ねると、口を揃えて「原発事故の収束のメドが立たないとわからない」と言う。福島県の復興ビジョン策定に向けて、事務方を務める福島県庁企画調整部総合計画課の松崎浩司主幹も「原発の動向がわからないと復興ビジョンが描きづらい」と話す。
 原発事故の収束の見通しが立たない状況が続くと、県外への工場移転が今後加速するなどの可能性がある。福島県の経済の主力は製造業などの第2次産業。工場移転は、県内の雇用悪化や人口減少に直結する。賃貸住宅市場も現在は需給が逼迫しているが、県による借上げ制度が本格化して需要が高まっているのが現状。民間投資が回復して地域経済が活性化されないと、本当の住宅需要も回復しない。
 県内の住宅需要が全くないわけではない。東北地方で事業展開しているマンションデベロッパー、サンシティ(仙台市、星山泰洙社長)が分譲するいわき市の「アルスイートいわき」は、JRいわき駅から徒歩7分に立地。12年3月完成予定で、昨年10月から販売を開始したが、総戸数72戸中62戸が既に成約済み。震災後も1件成約した。成約者の中には原発事故の影響を懸念している人もいるが、キャンセルした事例はない。同社によると、「ゴールデンウィーク中のモデルルーム来場者数も比較的好調」で、年内には売り切れる見通しを立てている。

郡山市で目立つ地震による建物被害

 福島県では、原発事故の影響だけではなく、地震による建物の被害も比較的多い。マンションでも被害があったものが散見され、特に郡山市での被害が目に付く。外壁が崩れ落ち、内部の構造が剥き出しになってしまっている築20年ほどの9階建てマンションや、軽微ではあるものの、最近竣工した建物で外壁にひび割れなどの被害が生じた物件がある。被害のあった物件は、築年数に関係なく影響を受けており、特定の地域に被害が集中しているということもない。複数の地場業者に尋ねても、「地震の被害が他の市よりも大きいのかは不明」としている。
 そのほかにも郡山市内では、1階部分が潰れた4階建てビルや、屋上にある展望台が倒壊した5階建ての市役所本庁舎など、大型の建物で被害を受けた建物が比較的多くみられる。福島市内でも、築5年ほどの地上16階建てのマンションで外壁が崩れ落ちるなどの被害を受けた物件がある。
(2011/05/20 日刊不動産経済通信)

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