新時代の管理運営を探る㊹東日本大震災から10年、必要なマンションの災害対策の強化①ー飯田太郎(マンション管理士/TALO都市企画代表)


 東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)から10年の節目の年をむかえた。東北地方の沿岸部等は未だ復興途上にあるが、国や自治体の災害対策は整備されてきた。マンションでも南海トラフ巨大地震や首都直下地震に備えて、行政と協力して地区防災計画を策定するなど、体系的な取り組みをしているところがある。その半面、災害対策を重要な課題と認識していても、具体的な体制づくりが進んでいないマンションも少なからずある。今後、高齢居住者等の災害弱者が増え、管理不全も懸念されるなかで、新しい発想が求められるマンションの災害対策について考える。



 東日本大震災の死者・行方不明者は2万2000人を超えるが、津波の犠牲になった人が多く、地震動による建物の倒壊や火災による被害者はそれほど多くない。被災したマンションも少なかった。東京カンテイの調べによると宮城県内の738棟の中で大破1棟、中破15棟である。1995年に発生した阪神・淡路大震では2729棟の中で大破83棟、中破108棟だった、2017年に発生した熊本地震の722棟中、倒壊・大破6棟、中破46棟と比べても、東日本大震災によるマンション被害は少ない。それでもマグニチュード9の巨大地震は、首都圏のマンションにも影響を与えた。千代田区の外郭団体であるまちみらい千代田が区内のマンションを調査したところでは250棟中の51件で外壁のヒビ割れ等があった。
 東日本大震災の発生時、首都圏で最も大きな問題になったことは、交通機関の途絶により多くの帰宅困難者が出たことである。東京都は震災の1年後に帰宅困難者対策条例を制定し、従業員の一斉帰宅の抑制等を事業所に要請している。多数の旧耐震のビルやマンションがあるため、耐震化推進条例を制定し特定緊急輸送道路沿いのマンションやビルの耐震診断を義務付けている。木造住宅密集地域については、不燃化を促進する10年プロジェクトを実施している。都内の全世帯に防災用ハンドブック「東京防災」を配布し、住民への啓発を進めている。区市の中にはマンションの地震対策の手引の制作、マンションの防災力を評価、認定する制度を設けているところある。
管理組合等の災害対策への取り組みや区分所有者の意識も向上している。5年ごとに実施されるマンション総合調査の結果をみると、東日本大震災の2年後の平成25年度の調査では「定期的に防災訓練を実施している」33.7%、「災害時の避難場所を周知している」25.1%だったが、平成30年度にはそれぞれ5%以上増加している。また、平成25年度調査で「特に何もしていない」と回答した管理組合は29.7%あったが、平成30年度には23.4 %に減少した。 
 区分所有者を対象に管理に関して取り組むべき課題を聞いたところ、「防災対策」は33.6%で大震災後の平成25年調査より減少したが、「長期修繕計画の作成又は見直し」の32.0%、「修繕積立金の積立金額の見直し」の28.9%を上回り最も多くなっている。

月刊マンションタイムズ2021年3月号

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