新時代の管理運営を探る㊸飯田太郎(マンション管理士/TALO都市企画代表)             世界ランキングが示す 日本の都市とマンションの課題
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子育てをしやすい都市とマンションに 


 東京等の日本の大都市が経済力等で高い評価を得ている半面、子育てや主観的な幸福度が低いことは、都市の現状を反映したもので、多くの人が気づいていることである。特に主観的な幸福度が低いことは、日本人、特に都市で暮らす人が求める生活レベルが高いことを反映したもので、活力や向上心の源泉であるともいえる。衣や食がある程度充足しても、働き方や住まい、文化・芸術、レジャー等についてまだ満足していない人や、女性の社会的地位が低いことに我慢ができないと思う人も多い。一億総中流といわれた状態が崩れ、次第に格差が拡大するなかで不満が蓄積していることは否めない。国連の幸福度調査でのランクが年々低下していることは、日本が直面する課題を示している。
 コロナ禍で改めて明らかになったことは、日本の社会がもつソフトな強さである。世界の主要都市の多くは、何らかの分断、分裂につながる要素を内包し、しばしば暴動等として顕在化するが、日本には分断や対立等の要因となるものは少ない。阪神・淡路大震災や東日本大震災でも、多くの人が亡くなり、建物や社会インフラが甚大なダメージを受けても、住民の冷静な判断力と行動が略奪や破壊行為による二次的な被害を防いできた。住民がパニックに陥らないことは、目立たないが重要な防災力といえる。また世界の多くの都市にある衛生状態が極端に悪いスラム街は、現在の日本には存在しないことも強みである。
 新型コロナ感染症の拡大のため2度目の緊急事態宣言が発出されたが、具体的な手法はロックダウンといった強硬措置ではなく要請である。法改正も行われるが、今後もおそらく「自粛」中心で対応できる可能性が高い。懸念されるのはコロナ禍のなかでさらに格差が拡大していることだ。職を失いその日の食事にも困る人が急増する半面、全国民に支給した一律10万円が定額給付金の多くが預金されているという。格差の拡大は日本社会の基礎体力を損ね、分断を招くことになり「住みやすい都市」の魅力が失われることにつながる。
また、2019年の東京の合計特殊出生率は1.15で3年連続低下した。全国平均1.36より0.21ポイント低い。マンション供給が盛んで人口集中が続いてきた東京で、子どもを産み育てることができないことは深刻な問題だ。子育てをしやすい都市をつくるためには、主要な居住の場であるマンションのあり方が問われることになる。高経年マンションの再生が重要な課題になっているが、建物の長寿命化や建替え等の物理的な再生だけでなく、子育てがしやく高齢者等に優しい生活を送る場として再生するための取り組みも必要である。
 コロナ禍で販売センターが一時閉鎖されたこともあり、2020年のマンションの新規供給戸数は激減したが既に回復し、超高層マンションの販売状況も好調だ。しかし他方では「タワーマンションは30年後にはほとんど廃墟になっている可能性が高い」という意見もある。区分所有者数が多い上に建物・設備の仕組みが複雑なため、メンテナンスが難しいことが主な理由だ。たしかに現在のようにマンションを短期的な視点で投資対象とすることや、管理組合や維持管理を軽視する傾向が続けば、こうした懸念が現実になる可能性もある。
 だが昨年10月号の本欄で紹介した武蔵小杉のタワーマンションの居住者を中心とするエリアマネジメント組織のように、管理組合主導でまちづくりに積極的に取り組む動きもある。こうした動きが広がれば各種のランキングによる評価もバランスもとれたものになるだろう。

 月刊マンションタイムズ 2021年2月号

マンションタイムズ
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