観光業に求められる変化への対応 株式会社やまとごころ 代表取締役 村山慶輔(上)より続く
次に「徹底的に守る」ということも重要だ。ある飲食店では、コロナ禍でも生き残るためにあらゆるコスト構造の見直しをはかり、売上が前年比の半分でも黒字化を達成している。キッチンペーパーの使い方から現場スタッフの導線の見直しとそれに伴う体制の効率化を徹底した結果だと言う。もちろん私が指摘するまでもないだろうが、案外、これまでのやり方に固執してしまい自ら苦しくしているケースは少なくない。
“高付加価値化”で
攻めの施策を考える
資金の流出を回避したり、徹底した経費の削減を行う「守り」だけではなく、未来を読んだうえで、「攻める」必要もある。すでに記した高付加価値化や単価アップをはじめ、新規事業、新規集客、リピート増への取り組みなどだ。
このなかで特に私が重要だと考えているのは「高付加価値化」である。これは密を避けるという意味合いも多分にあるが、それ以上に顧客ニーズの変化や生産性の向上のために必要となる。その切り口は「価値をきちんと伝える」「売り方を工夫する」「商品・サービスの根本的な設計を変える」「“共感”で価値を高める」といったことがあろう。
一例を挙げると、その商品やサービスの社会的な意義を伝えることで価値を高める方法がある。メキシコの太平洋沿いにある小さなリゾート「プラヤ・ビバ」では、地域住民の暮らしを良くするため、有機農業システムの構築や廃棄物削減プログラムを実行している。そうした活動、いわば“料金”以外の付加価値に魅力を感じ共感を持った人が、世界中から泊まりにくる。
また、カンボジアのカルダモン国立公園にあるシンタ・マニ・ワイルドという宿泊施設は、120人のスタッフのうち約7割を地域コミュニティから雇っているのだが、驚くべきは、そのうちの何人かは知識不足や経済的困窮からかつては密猟や違法伐採を行っていた住民であるとのことだ。ちなみに、同施設は1泊約20万円がミニマム料金となっている(3泊以上が条件)。
コロナ禍は観光業にとって、前代未聞とも言えるピンチだ。一方で根本的に変わるチャンスでもある。むしろこれをきっかけに思考も行動も変えなければ未来はないという言い方もできよう。まさに正念場であり、それはインバウンドを軸に事業を展開してきた私(やまとごころ)も同じである。ぜひ共にピンチをチャンスに変えていこう。
2021/5/19 不動産経済Focus & Research