コロナ禍でサテライトオフィスが急拡大―「集中から分散へ」という新たな価値観(下)

 

コロナ禍でサテライトオフィスが急拡大
―「集中から分散へ」という新たな価値観(上)
に続く

通勤時間を取り戻し自分のために使う
若年人口流出防止へ地方自治体も関心

 サードプレイスオフィスの一形態である「サテライトオフィス」がコロナによる出社制限を機に、ここにきて需要・供給とも急増している。中でも「3密」を避けることのできる個室タイプが人気を集めている。在宅勤務は要請されたものの、自宅では仕事を進めにくい人たちが最寄り駅近くの拠点を利用するケースが増えているからだ。急拡大のきっかけはコロナだが、その背景には「集中から分散へ」という新たな価値観の台頭と、それに基づく大きな社会変革が垣間見える。


 首都圏の郊外エリアにサードプレイスオフィスの広がりが目立つのは、東京は地方に比べ圧倒的に通勤時間が長いからである。自宅から会社までドアツードアで1時間以上という人はザラだ。1日2時間、週5日で10時間。これだけの時間を家の最寄り駅近くのオフィスに通うことで別の目的に使うことができれば、そのメリットは計り知れない。つまり、サテライトオフィス急拡大の真の背景はコロナではなく、通勤という無駄な時間を取り戻し、自分のために使いたいという若い人たちの切なる願いとも言えるのである。
 ザイマックス取締役の辛島秀夫氏はこう語る。「今の若い人たちは大手に入社したらそれで満足というのではなく、安定した収入をもらいながら若いうちにベンチャーの仕事などいろいろな経験をして、将来に生かしたいという意欲のある人が多い」。こうした動きを受けて、サテライトオフィスは今のところは首都圏が中心だが、地方の自治体も関心を持ち始めているという。東京の会社に就職した若者が地元のサテライトオフィスで働くことができれば若い人の流出を防ぐことができるからだ。そのため、自治体の中にはサードプレイスオフィスの設置を助成するところもあるという。

本番迎える働き方改革
「集中」から「分散」へ


 企業もポストコロナに向けた新しいワークプレイスのあり方を真剣に検討する段階に入ったようだ。全社員を毎日会社に通勤させるスタイルが本当に合理的なのか。仕事の種類や業態だけでなく、親の介護など様々な働く側の希望に応じてメインオフィスとサテライトオフィスを使い分ける柔軟性こそがこれからの企業社会に求められているのではないか。「集中から分散へ」という新たな価値観の台頭である。
 サテライトオフィスの効用としてはこんな見方もある。家の近くで働く社員が増えれば、大地震などが起きた時に「帰宅困難者」を減らすことにもなるし、災害にあう社員のリスクを分散させることもできる。サテライトオフィスによる勤労者の“分散化”は首都直下地震が迫る首都圏にとっては欠かせない政策と言えなくもない。

意識の底に残る「ニューノーマル」 
国の形を変える力になるのか


 「3密回避」などコロナによって様々な“ニューノーマル”が生まれたが、それらはコロナが終息すればまた元に戻るということではない。気の緩みは生じるとしても、密よりも疎、狭よりも広、集よりも散、という価値観は人々の意識の底に残る。特に、「やはり集中ではなく、分散が望ましいのでは」という漠とした感覚は東京一極集中の是正や、行き過ぎた中央集権の見直しなど、国の形やあり方そのものに影響を与える可能性もある。
 企業にとっても、家でもない会社でもないサードプレイスオフィスの広がりは、「集中から分散へ」という経営思想を強めることになるだろう。たとえば、全国の主要都市圏で働いてもらう社員は地方で採用し、そのまま地方のサテライトオフィスで働いてもらう。そうした企業が増えれば、東京と地方との賃金格差が徐々に解消に向かう。そうなると、働く側にしてみれば、同じ賃金がもらえるなら物価の安い地方に住んだほうが豊かに暮らせるということになり、人口の地方分散が進む。
 サテライトオフィスの積極活用は企業にとっては“通勤費削減”、社員にとっては“通勤ストレスの解消”になる。企業にとって、いずれは、本社や支店のオフィス床という“固定費削減”にもつながっていくことになるのではないか。そもそも、社員に働く場を提供するという業務自体が、将来的にはサードプレイスオフィスサービス会社に移行する時代がやってくる可能性もあるだろう。

 2020/12/5 不動産経済ファンドレビュー

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